ログイン
MAGAZINE
Feb. 24, 2021

【シネコヤが薦める映画と本】〔第32回〕『ハッピー・オールド・イヤー』
〜断捨離道場から学ぶ、心の中の整理整頓術〜

海水浴客で賑わう江ノ島から電車で一駅。閑静な住宅街に囲まれた鵠沼海岸商店街の一角に佇む「映画と本とパンの店・シネコヤ」。こだわりの映画と本を用意して街の人たちを温かく迎える竹中翔子さんが、オススメの1本と1冊をつづる連載コラム。
今回は、断捨離映画『ハッピー・オールド・イヤー』から学ぶ、心の中の整理整頓術について。

*******

趣味、《整理整頓》。
と、小学生のときに思っていた。
机の引き出しの中身を、散らかっていようが、散らかっていなかろうが、小分けのプラケースを引き出しの中に並べて、鉛筆の入るところ、消しゴムの入るところ、定規の入るところ、クリップの入るところ…と入れ替えるのが楽しくて月に何度も入れ替えていた。
入れ替えるのが好きなもんだから、自分でもどこに仕舞ったのかわからなくなってしまうこともしばしばあり、《整理整頓》の本来の目的はそっちのけで、小分けケースの入れ替えに夢中だったのだ。

©︎2019 GDH 559 Co., Ltd.

大人になり趣味が《整理整頓》だったことなどすっかり忘れた頃…毎日仕事の“タスク”という山に追われ「時間がない」が口癖になっていたある日、友人から「断捨離をするといいよ」と言われた。「いいから、今から家にある洋服を全部ここに持ってきて、並べてごらん。」と言われるがままに、家中の洋服を持ち出した。“ときめく”ものだけを残して…そうすると、すっかり身の回りが様変わりするという。
「いい?ここを“断捨離道場”だと思って、本気でやってね」と山のように積まれた洋服を目の前に、“断捨離”の極意を語りだした。それに基づいて、わたしの“断捨離道場”は、はじまった。

それはそれは、想像以上にハードで、涙涙の“断捨離道場”の幕開けだった。

《断捨離=捨てること》ではない

“断捨離道場”を経験した身として、《断捨離映画》は見逃せない。
共感度MAXの「断捨離」ムービーが公開されると聞いたら、観ないわけにはいかない。

『ハッピー・オールド・イヤー』(タイ/113分)

タイ・バンコクを舞台に、主人公が断捨離を決行していきながら、周りをも巻き込んでいく、“断捨離”を通してその人間関係があぶり出されていく様子ときたら、妙にリアルで笑ってしまう。“断捨離経験者”としては、よくぞこの断捨離の極意をまとめてくれました、といった気持ちである。

©︎2019 GDH 559 Co., Ltd.

(あらすじ)
留学先のスウェーデンでミニマルなライフスタイルを学んで帰国したデザイナーのジーン。かつて父親が営んでいた音楽教室兼自宅の小さなビルで、出て行った父を忘れられずにいる母、ネットで自作の服を販売する兄と三人暮らしの彼女は、ある日家をリフォームしてデザイン事務所にするべく、断捨離を開始する。
洋服、レコード、楽器、アルバム—— 友達から借りたままだったモノを返して廻り、元カレのカメラを小包にして送り返す。部屋が片付いて行くのと反比例して、心は千々に乱れて…。
時は年の瀬、ジーンは新たな気持ちで新年を迎えることが出来るのか?

《断捨離=捨てること》と思っている人は多いのではないか?
しかし、それは少し違う。着目すべきは《捨てる》ことではない。
“断捨離”とは、“自分の気持ち”と向き合う行為である。
映画の中でジーンが身の回りのモノを通して自分自身と向き合うように、どれが自分に必要なものか、どれ自分にとって大切か、どれが自分にとって…
と永遠に自問自答を繰り返していく。それが“断捨離”の本質なのだ。

©︎2019 GDH 559 Co., Ltd.

わたしの“断捨離道場”はというと、小学生低学年から集めていたシールの束、旅行先のホテルの一角で売られていた謎のワンピース、高校生の時にノートに書きとめた恥ずかしいポエム…物理的なモノ以上に、精神的な記憶の“整理整頓”にも及んだ。ジーンと同じく、苦くて、恥ずかしくて、重たくて…1枚1枚カサブタを剥がしていくような痛い作業であった。選ばれた《捨てる》ものたちを通して、記憶の片隅に追いやっていた思い出とともに“自分の気持ち”と向き合う期間となった。

心の中の整理整頓術

断捨離を終えた人には、『シンプルを極める 余分なモノを捨て、心に何もない空間を作る』(ドミニック・ローホー著)をおススメしたい。わたしたちの生活がいかにモノで溢れ、モノに支配されているかを説き、小さなテーマを立てながら分かりやすく「シンプルに生きること」を提案している。
わたしたちは、ほんの一握りの最低限のモノと思考だけで満足できることを、知っていなければならないと思う。タイトルにある通り「余分なモノを捨て、心に何も無い空間を作る」こと。
それが、自分の人生を豊かにする循環を生み出すのだ、ということを教えてくれる。

常に少しの空間を自分の中に持っておく。そうすると、必ずそこに有益な何かが入ってくる。
心や気持ちにポッカリと空間が空くと、新しいものが入ってくるのだ。
“断捨離道場”を終えた私にも、その効果はあったようだ。シネコヤができる2年前、“断捨離道場”でポッカリと生まれた空間に、現在のシネコヤにつながる出会いがあったことは、紛れもなく“断捨離”によるものだと信じている。

心の中を整理整頓しておけば、歯車が回るように、人生は豊かに動き出すのだ。
あなたの心の中、いっぱいになってませんか?

【おすすめの本】「シンプルを極める 余分なモノを捨て、心に何もない空間を作る」

2011年|ドミニック・ローホー 著|幻冬舎

【おすすめの映画】

『ハッピー・オールド・イヤー』
■監督:ナワポン・タムロンラタナリット
■シネコヤでの上映期間:3/20(土)~

「映画とパンの店・シネコヤ」

【営業時間】
9:00〜18:00ごろ
※不定休
【アクセス】
神奈川県藤沢市鵠沼海岸3-4-6(鵠沼海岸商店街 旧カンダスタジオ)
小田急江ノ島線「鵠沼海岸」駅から徒歩3分くらいです。
【問い合わせ】
TEL:0466-33-5393(代表)
WEB:http://cinekoya.com/

Writer:竹中翔子(たけなか・しょうこ)

株式会社シネコヤ代表取締役
学生時代に映画館のアルバイトスタッフを経験し、映画の魅力にハマる。地元映画館の閉館を受け「もう映画館はダメだ!」と思い、映画だけではない+αの空間づくりを目指し、「シネコヤ」として本格的に活動をはじめる。鵠沼海岸のレンタルスペースで毎月2回、フードや会場演出をこらした映画イベントを主宰。2017年4月鵠沼海岸商店街の一角についに「シネコヤ」をオープン。貸本屋を主体とした「映画と本とパンの店」というコンセプトで新たなスタイルの空間づくりを行っている。

Share

この記事をシェアする

Related

0 0
記事一覧へ