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May. 23, 2025

【映画にみるインテリア】映画にみるインテリア
〜 Interior Design In Cinema 〜 vol.14

京都の町屋でインテリアコーディネート業を営むDECO-TE(デコ・テ)と申します。

このコラムでは映画のインテリアに焦点をあて、物語をより深く味わう体験を一緒に楽しんでいきたいと考えています。映画のセット、背景をつくる方々を「美術さん」とよびますが、インテリアコーディネーターが「こうありたい」という理想や未来に向かって部屋を作るのに対して、彼らは過去の蓄積が表出した姿を作り込みます。映画をみるときはおしゃれかどうかは関係なく、住人の人間性がダダ漏れているお部屋にキュンとします。

毎回その映画の空気感を感じられるようなアイテムもご紹介していきますので、お楽しみいただければ幸いです。

今月のブリリア ショートショートシアターオンラインはカンヌ特集です!この記事を書くためにカンヌについて調べているからか、カンヌにまつわるニュースが続々と飛び込んできて、例年になく楽しめています。メインのコンペティション部門、ある視点部門だけじゃなく、監督の目線で優れた監督を選ぶ「監督週間」にノミネートされた作品も気になります。『国宝』は吉沢亮主演、任侠の家に生まれながらも歌舞伎の世界を目指す、吉田修一の原作を李相日監督が映画化したんだとか。さぞかしきれいな女方がみられるのでしょう・・・評価もよかったようで、上映が楽しみです。

今月の映画『ポトフ 美食家と料理人』

78回目となる今年の映画祭、審査員長はジュリエット・ビノシュだそうです。憂いを帯びた瞳でほんのり笑うかわいらしい印象とは裏腹に、激しさや強さのある表現に驚かされる稀有な女優さんです。

そんな彼女が主演した映画も、2023年のカンヌで最優秀監督賞を受賞していました。監督はトラン・アン・ユン、『青いパパイヤの香り』で一斉を風靡しました。その頃渋谷をうろうろしてた(悪いことはしてません)ので、あちこちでポスターを見かけたのをよく覚えています。友達の家にはだいたいチラシが貼ってありました。

ところで本題の映画、タイトルは『ポトフ 美食家と料理人』です。正直美食家ってなんやねん!食いしん坊か!と思いましたが、みてみたらその通り「美食家」でした。フランス語ではガストロノミーとよばれる「美食術、美食学」という分野があり、料理を芸術や文化のレベルで考える人たちなんだそうです。

時代的には19世紀末、フランスの森のそばにあるシャトーが舞台。シャトーの主が「美食家」「料理会のナポレオン」ともよばれるドダン(ブノワ・マジネル)、そこで料理人として働くのがウージェニー(ジュリエット・ビノシュ)です。

©2023 CURIOSA FILMS- GAUMONT – FRANCE 2 CINEMA

とにかく驚くのはお料理をするシーンの長さ!お料理のシーンはほとんどワンカットで撮られたそうで、冒頭からドダン、ウージェニー、お手伝いをする女の子2人の計4人が30分間黙々とお料理するシーンが流れます。そしてその舞台となるキッチンが素晴らしいのです。

壁には大小様々な銅のお鍋、調理器具がかけられ、大きめの暖炉もあります。お部屋中央にはオーブンとレンジが組み込まれたアイランド型の調理台があり、4方向から使えるようになっています。

調理器具なんかもすごく面白くて、基本的に切った食材は(今はアンティークとよばれる)絵皿なんかに入れてガシガシ使ってます。大きなヒラメを牛乳で煮るためのサイズぴったりの菱形のボウル、アイスを作るための装置など出てきて、本当にみていて楽しい映画なんです。

©2023 CURIOSA FILMS- GAUMONT – FRANCE 2 CINEMA

この映画の特筆すべき点は、そうしたワンカットでとられたダンスのような調理風景ともうひとつ、調理をする音。ユン監督も、映像より音に時間をかけた、という通り、見応えと聞き応えがありうっとりさせられます。水分たっぷりの野菜をもぎとる音、よく切れる包丁の音、暖炉の薪がはぜる音など臨場感たっぷりに、まさに芸術としてのお料理がみられます。アンティーク好きにもたまらない映画です。

今月のショートフィルム『最終フェリーに乗って / The last ferry from grass island』

今月のショートフィルム配信の中で好きだったのは、香港発『最終フェリーに乗って』。海沿いで年老いた母とともに暮らす元殺し屋、ハードボイルドムービーというのでしょうか。渋い作品でした。

海沿いというか、ほとんど海の上にあるボートハウスのような家、海にせり出した半屋外のキッチンがよかった。世界にはいろんなキッチンがありますねー。あんな場所に暮らす人々にとっては日常の風景だと思いますが、それでも朝焼けや日がくれなずむような時間、調理中に海の美しさに手をとめる瞬間があるのではないでしょうか。全体的に色彩の美しい映画でおすすめです。個人的には、元殺し屋が母親の見るテレビ番組をみて「またポリスストーリー(再放送)か!」と呆れるシーンにグッときました。

https://www.heiannominoichi.jp/
毎月岡崎公園で行われる「平安蚤の市」、日本の骨董だけではなく、こちらではヨーロッパのアンティークもみられて若い人にも人気ののみの市になっています。

Writer:DECO-TE

京都で家族+猫2匹と暮らすインテリアコーディネーターです。 はじめてハマった映画は『ダーティ・ダンシング』、ビデオテープが擦り切れるほどみて研究し、高校の体育の授業では創作ダンスも披露しました。 好きな映画は一時停止しながら何度も見るのが好き。お部屋の細部をみながら、その人の人生や生活を想像して楽しんでいます。

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