京都の町屋でインテリアコーディネート業を営むDECO-TE(デコ・テ)と申します。
このコラムでは映画のインテリアに焦点をあて、物語をより深く味わう体験を一緒に楽しんでいきたいと考えています。映画のセット、背景をつくる方々を「美術さん」とよびますが、インテリアコーディネーターが「こうありたい」という理想や未来に向かって部屋を作るのに対して、彼らは過去の蓄積が表出した姿を作り込みます。映画をみるときはおしゃれかどうかは関係なく、住人の人間性がダダ漏れているお部屋にキュンとします。
毎回その映画の空気感を感じられるようなアイテムもご紹介していきますので、お楽しみいただければ幸いです。
©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会
カンヌ国際映画祭が終わったと同時に、続々と「『国宝』が素晴らしい!」との投稿を目にするようになり、私も行ってまいりました。李相日監督の作品では『フラガール』が大好き。その『フラガール』でも、そして今作『国宝』でも美術監督を務めたのが種田陽平さん、彼は以前こちらのコラムでもご紹介した日本屈指の美術監督です。今回映画のメインとなる歌舞伎の舞台は(歌舞伎ファンなら)誰もが知っている演目なので手を加えることは難しかったと思いますが、映画美術として楽屋裏の描かれ方がとてもよかったです。
©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会
主人公・喜久雄がはじめて飛び込んだ頃の楽屋はとても活気があって、忙しそうに歩き回る女将さんの後ろからカメラが追いかけるなど躍動感ある演出、生き生きとした陽の世界が描かれていました。色鮮やかな舞台美術、天井の高い舞台空間に面して2層になったお化粧室(楽屋)などダイナミックに、まさに水をぐんぐんと吸い込む真綿のような喜久雄の成長期が描かれています。その後喜久雄が大人になるにつれシンプルだった世界が複雑になり、共に歩んでいた俊介を結果的に蹴落とす大役を任され、親密だった楽屋が暗く孤独な場所へと変貌していきます。主人公・喜久雄を取り巻く環境の変化がよくわかり、流石の演出だなー、と感じました。
喜久雄は元々長崎で力を持っていた任侠の家の子で、映画の冒頭は喜久雄の父が率いる立花組の宴会からはじまるんですが、ここも見応えがありました。日本家屋の美しさ、おもしろさ、なつかしい昭和の風景と知られざる任侠の世界、知っているようで見たことのない風景を見せてくれる演出家、種田さんの真骨頂といった感じの華やかな世界でした。
©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025映画「国宝」製作委員会
最近の日本映画は、いわゆる「普通の人」「普通の生活」を繊細な視点で描いた作品が多く、もちろん面白いのですが、やっぱり「エンターテイメント」としての非日常感あふれる映画はいいですねー!3時間、どっぷりと浸ることができました。
ちなみに横浜流星演じる俊介の少年期を越山敬達さんが演じていて嬉しかった!彼の俳優としてのデビュー作『天狗の台所』、とってもいいのでぜひ見てみてください!
今月はジョージア特集ということで、ジョージア映画の中からスタッフの方々がセレクトしたおすすめの4本が配信されます。ジョージア?ジョージアといったら、X(旧twitter)で人気者のティムラズ・レジャバ駐日ジョージア大使しか知りませんでした。
(※この記事を書くのに大使の投稿を改めて読んでいたら、国際短編映画祭SSFF & ASIAとこちらのジョージア特集が紹介されてました!)
ジョージアは地理的、歴史的にアジアとヨーロッパが交わった場所で、独特の文化が育まれた国なんだそうです。ワインも美味しいそうで、今月の「エノテカ」佐野さんのコラムも楽しみですね!
どの作品も映像がとても美しく、淡々と日常の風景を撮ったものが多かったように思います。雄大な自然もみどころのひとつ。ぜひ4作とも見ていただきたい、素晴らしい作品ばかりです。
『ワルツ / Waltz』はジョージアのみならず旧ソ連圏で絶大な人気を誇るバンドMgzavrebi のミュージックビデオとして制作された異色の作品。母を失ったばかりの主人公、一緒に暮らす彼のパートナーのお腹には新しい命が宿っています。愛するパートナーとの日々の生活を大切にしながら、自らと父親の喪失の苦しみにも寄り添う日常が描かれます。そんな現在の映像に時折差し込まれる古い映像と音楽。二人が暮らす家、街の風景、食べるものからジョージアの国を垣間見ることができます。歴史が、命が繋がっていく情景を描いた壮大な作品、ぜひご覧ください
それにしても、調べれば調べるほどジョージアのお料理が気になりました。「King of 餃子」と言われるヒンカリ、チーズをたっぷりと使ったハチャプリなど見たことない(でも絶対美味しいとわかる)お料理がたくさんありました!味付けはスパイスとハーブ、塩を使ってシンプルに仕上げるそう。ぜひ食べてみたい!
https://www.taste-the-world.jp/menu
こちらは、朝ごはんを通して、世界の歴史、文化、栄養、生きることを知ることができるレストラン。6月、7月はジョージアの朝ごはんが食べられます!