シネマチックなライフスタイルのヒントを様々な視点から紹介するコラム「Cinema for Life」。
今回は現在最新作『女と男の観覧車』が絶賛公開中のウディ・アレン監督が、2012年のアカデミー賞脚本賞に輝いたロマンティック・コメディ『ミッドナイト・イン・パリ』。
観客を芸術に満ちた1920年代のパリへと誘うこの作品を、ファッションの切り口でイベントクリエイターの菅原敬太氏に語って頂きます。
時空を超えてファッションを楽しむ人達から学ぶものとは…?
ウディ・アレンの魔法に彩られた『ミッドナイト・イン・パリ』の世界に参りましょう!
©2011 Mediaproduccion, S.L.U., Versatil Cinema, S.L. and Gravier Productions, Inc.
ハリウッドの脚本家ギル(オーウェン・ウィルソン)と婚約者のイネス(レイチェル・マクアダムス)は、イネスの両親とともにパリを訪れます。
しかし結婚後の住みたい街が全く違うなど、趣味趣向の違う2人は、互いのファッションにも大きなズレが見られます。
例えば主人公のギルは、「素朴で飾らない人」スタイル。
ジャケット、シャツ、チノパンツなど、常にオーセンティックなアイテムを着用していますが、ポイントは長年着込んだような柔らかいシルエットと伝統的な織りや柄物を選んでいて、どこかノスタルジーを感じさせるファッションをしている点。
実はこのノスタルジーな着こなしが、現代と過去を行き来するこの物語の伏線になっているのだから驚きです。
©2011 Mediaproduccion, S.L.U., Versatil Cinema, S.L. and Gravier Productions, Inc.
対してイネスは、「洗練と着飾ることを楽しむ人」スタイル。
TPOに合わせてファッションを楽しむ姿も印象的でしたが、グラデーションを活かしたコーディネーション(以下グラデコーデ)のスタイリングが秀逸でした。
ブロンドヘアがより一層映えるブラウン系のグラデコーデを衣服で行ってしまうと、どこか重く暖かい印象になってしまうため、冬以外はあまり一般的なカラーコーデとは言えません。
しかしイネスは、バッグやベルトなどの小物でブラウン系のグラデコーデを行っています。
そして洋服は白のシャツワンピースをセレクトすることで、全体的に軽さを出しつつも印象的なブロンドヘアをより一層引き立てることに成功しています。
この様にまるで正反対な2人の相性の悪さが、この物語をより面白いものにしている重要なコメディ要素だと思います。きっとウディ・アレンは、言動だけでなく「素朴で飾らない人」と「洗練と着飾ることを楽しむ人」というファッションでも正反対な関係性を際立たせたかったのではないでしょうか?
小説「華麗なるギャツビー」などで知られる作家F・スコット・フィッツジェラルド(右)と、その妻ゼルダ
©2011 Mediaproduccion, S.L.U., Versatil Cinema, S.L. and Gravier Productions, Inc.
深夜0時、酒に酔ったギルが誘われるまま乗り込んだクラシックカーでたどり着いた先は、何と芸術&文化が花開いた1920年代のパリ!
そこで出会うF・スコット・フィッツジェラルド(トム・ヒドルストン)は、上質な仕立ての良いテーラードスーツを三つ揃えで着用していますが、昨今のクラシックブームで復権してきたジャケットはシングル、ベストはダブルの組合せで、いつの時代でも色褪せない「男の色気」を感じさせてくれます。
スペインの天才的な画家として有名なサルバドール・ダリも登場。
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サルバドール・ダリ(エイドリアン・ブロディ)は、ブラックスーツにブラウンカラーのネクタイをあわせた上に、ベルベットのような光沢あるベストを着用して、他とは違うモードな装いで時代を超越した「洒落者」として登場します。
その他にも、冒険的なイメージがあるアーネスト・ヘミングウェイ(コリー・ストール)は、重厚感溢れるサファリジャケットで登場するなど、次から次へと高名な人物が現れますが、現在でも語り継がれる偉人だからこその個性溢れるファッションは注目です。
アドリアナ(左)のこのファッションも、実は女性の社会進出を象徴している!?
©2011 Mediaproduccion, S.L.U., Versatil Cinema, S.L. and Gravier Productions, Inc.
そして、ゼルダ・フィッツジェラルド(アリソン・ピル)や、アドリアナ(マリオン・コティヤール)などは、ウエストを締めない直線的なシルエットが特徴の1920年台の女性ファッションで登場します。
このスタイルは現代人の私達が見ると、フリンジの装飾やレースの施し方なども相まってとてもフェミニンなスタイルに見えますが、その当時はボーイッシュなスタイルと受け止められていました。
これまでの1910年代は、コルセットを装着してロングのスカート丈が一般的な女性のスタイルでしたが、女性の社会進出に伴って、ウェストを締めない直線的なシルエットで、ヒップやバストのラインを強調しないこの合理的なスタイルが必然的に誕生したそうです。
ファッションの受け取られ方が時代によって変遷するのも、ファッションの面白さなのかも知れませんね。
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「憧れの時代」や「憧れの場所」は誰しも持っているものです。
憧れの時代に自由にタイムスリップできなくても、ファッションは時空を越えて語り継がれ『ミッドナイト・イン・パリ』のように忠実に現代に再現できるのです。
そして、ヴィンテージ品やアンティーク品などがいつの時代にも存在するように、誰しもが時空を超えたファッションを楽しめるからこそ、当時のファッションに身を包み憧れの場所に行ってみるのも、日常を豊かなものにしてくれるファッションの楽しみ方なのではないでしょうか?
そういった時空を超えるファッションとは、周りの目を気にせず、心を開放して自分が自分でいられるファッションだと思います。
あなたにとっての時空を超えるファッションは何ですか?
(文・菅原敬太)
『愛おしい家 / Home Suite Home』
忙しない日々に忘れかけていた、大切なこと。
【あらすじ】
ルートヴィヒはベテランのホテルの覆面調査員で、この27年間、年の300日をホテルで暮らしている。ある日年下の女性調査員と出会い、単調な毎日の繰り返しから一歩を踏み出すことになる。
無料視聴はこちらから
『ミッドナイト・イン・パリ』
DVD¥1,800+税
発売・販売 KADOKAWA
©2011 Mediaproduccion, S.L.U., Versatil Cinema, S.L. and Gravier Productions, Inc.
Writer:菅原敬太(イベントクリエイター)
新製品発表会を中心とするPRイベントのプロデューサー。
キャリア20年を誇り現在も週1本ペースでPRイベントに携わり多忙を極めるも空き時間には「服」と「甘味」を求める「ファッショニスタ」であり「カンミニスタ」でもある。 「PR演出」「ファッショナブル プロモーション」を提唱し講演や講師としても活躍中。
文化服装学院 非常勤講師
Instagram: @sgwrkta
www.synchronicity.jp