京都の町屋でインテリアコーディネート業を営むDECO-TE(デコ・テ)と申します。
このコラムでは映画のインテリアに焦点をあて、物語をより深く味わう体験を一緒に楽しんでいきたいと考えています。映画のセット、背景をつくる方々を「美術さん」とよびますが、インテリアコーディネーターが「こうありたい」という理想や未来に向かって部屋を作るのに対し、彼らは過去の蓄積が表出した姿を作り込みます。映画をみるときはおしゃれかどうかは関係なく、住人の人間性がダダ漏れているお部屋にキュンとします。
毎回その映画の空気感を感じられるようなアイテムもご紹介していきますので、お楽しみいただければ幸いです。
今月はFIFAワールドカップにちなんで「サッカー特集」です。メキシコ、チリ、イラン、そして日本から、サッカーを通して人間を描いた4作品がセレクトされました。どの作品にも子供が出てきて、夢や憧れとイコールになったサッカーの偉大さを実感する一方で、貧困を描く作品も多いなと改めて感じました。
なかでも特に気になったのが日本の作品『GIFT』です。何が気になったって、監督である中田雄一郎さんの経歴がすごい!
<中田雄一郎>
東京生まれ千葉県育ち アメリカ、カリフォルニア大学サンタバーバラ校物理学部卒業後、ドイツ、ミュンヘン大学大学院にて天体物理学を専攻。中退後外資系メーカーや国立天文台などを経て映像の道に踏み込む。映画24区にて脚本のワークショップを受講後、自主ベースで作品を作り続けている。大の猫好きで自ら保護した2匹の猫と暮らしている。

「物理学から天体物理学へ、そして映像の道に」って頭の中にどんな宇宙があるんでしょうか。日本でもこんなにのびのびと夢を追い続けられる人がいるんですね。2018年の初監督作品『Good By My Son』はカンヌをはじめ世界70カ国以上で上映、今作『Gift / ギフト』は2作品目の短編だそうです。
華麗な経歴とは裏腹に、中田監督の視線はとても等身大であたたかく、市井の人に向けられているように感じます。
<ストーリー>
コロナ禍、ウーバー配達員の元シリア難民の青年ヤセルが母子家庭で育つ日本人の少年、瑛多と出会い、料理やサッカーを共にすることで家族的な絆を深めていく。
異国の地でギリギリで暮らすヤセルと、唯一の家族である母の帰宅が遅く、ほとんどの時間を一人で過ごす小学生の瑛多。サッカーボールが会話の糸口となり、お互いのことをもっと知りたい、と交わす会話が感動的です。ともに厳しい現実に直面する二人が、映画の25分間、お互いを思いやるやさしい世界に癒されました。
サッカーと貧困は同時に語られることが多い、ということでいうと、瑛多の母親のようなシングルマザーと貧困も、世界的に切り離せない主題だと感じます。
(C)日本テレビ
シングルマザーの映画やドラマはたくさんみていますが、一番に思いつくのは満島ひかりさん主演の『Woman』!これが好きすぎて、インテリア解説なのにこれをご紹介するわがままをお許しください。配役が素晴らしく、味のある俳優さんばかりで見応えがあるし、なにしろふたりの子供たちがむちゃくちゃかわいい!今ならAmazon PrimeやNetflixでみられます!
『Gift / ギフト』もそうでしたが、頼る家族もなく、女性が一人で子供を育てていくことの厳しさと、日本の貧困への社会の冷たさに愕然とします。子供を預けられる場所も家族の手もないので存分に働けない、賃金が低く、代わりはいくらでもいる仕事なのでずっと不安定、生活費だけで手いっぱいで貯蓄ができない。よく「母が女手ひとつで育ててくれました」と語られるけど、昔よりも社会で孤立しがちで、精神的にハードになっていると感じます。
満島ひかりさん演じる青柳小春は、実の母親との関係が悪く、頼らずに暮らしています。でもどんなに仲が悪くても家族がいるということで、生活保護の申請を受け付けてもらえない。みていてしんどい、神様はどれだけ試練を与えるんだと暗澹たる気持ちになりますが、小春の子供達への愛情がすさまじく、引っ張られ見入ってしまいます。
小春の母たちが暮らす家がとてもいいです。雑司ヶ谷にある実在の洋装店らしく、再婚した母が夫とその娘と暮らすテーラー兼住居という設定です。私は生まれた時からマンション暮らしですが、あの家をみてると懐かしく、匂いや手触りなんかも想像できます。日本人のDNAに練り込まれた何かが入っているような気がします。脚本は坂元裕二さん、ぜひご覧ください!
音から涼をとるというのは、日本の誇るべき感性だと感じます。残念ながら今は暑すぎて、夏に窓を開けるのはむずかしいほどですが…。