2020年1月26日(日)、Brillia SHORTSHORTS THEATER ONLINE(BSSTO)は、東急東横線「学芸大学」駅近くにある「路地裏の文化会館 C/NE(シーネ)」にて、「New Cinema Lab.」を開催しました。
映画を軸にした場づくりをしている方をゲストに、開業ストーリーやその裏にある哲学を伺う本イベント。文化的な拠点づくりに取り組む方を応援する目的で、BSSTOの公開収録イベントとしてスタートしました。第2回となる今回は、「Vol.2 “映画と本とパンの店 シネコヤ”にきく“映画なお店の作り方”」と題し、神奈川県藤沢市の鵠沼海岸から(株)シネコヤ代表取締役の竹中翔子さんをゲストにお招きし、お話を伺いました。
イベント前半は、竹中さんからシネコヤについてプレゼンテーションをいただきました。
前・中・後編と分けてお届けする本レポート。前編はプレゼンテーションの模様をお届けします。
竹中祥子さん
映画と本とパンの店・シネコヤの竹中です。本日はよろしくお願いします。
シネコヤは小田急江ノ島線の鵠沼海岸駅から徒歩3分ほど。地域の人たちが使う商店街の中にあります。鵠沼海岸駅は江ノ島駅の一駅隣で、海からも徒歩5分くらいで行ける、そんなに大きくはないですが夏は観光客も来るような海の町です。シネコヤをオープンしたのが2017年の4月で、今年(2020年)の4月で丸3年になります。
シネコヤは「映画」と「本」と「パン」という3つをコンセプトに新しい映画空間ということで始めました。1階にパン屋さんとカフェスペースがあります。パンだけテイクアウトで買っていただけますし、カフェとしてもご利用いただけます。1階の奥と2階が有料スペースという形で、本と映画が楽しめます。
シネコヤ外観写真
1階のパン屋さんは、自家製酵母のパンを毎日販売しています。もともと映画とパン屋さんを組み合わせたいと思っていたわけではなくて、なにかカフェ要素というか飲食の要素を入れたいと思っていたんです。喫茶店メニューみたいなものも考えていましたが、映画を観ながらカトラリー使って食事をするのはなかなか難しいかなと。
そこで、毎日の常設の場所として考えたときに、パンってぴったりじゃんって思い当たりました。あまり音も出ないし、片手で食べられて、お惣菜とか甘いものとかのバリエーションも作れるので、すごくいいなと思ったんです。それで地元のイベントに出店していて個人でパンを作っていた方に声をかけて、オープンの時に一緒にお店に入ってもらうという形になりました。
パンのスペースの写真
1階奥と2階の本のお部屋を貸本屋という形で、漫画喫茶のように時間でその場所を利用できるシステムです。3時間500円で、本のスペースではお茶しながら本を読んでいただけます。今は3000冊くらいの本がありますが、選書は映画をテーマにしてセレクトをしていまして、映画の原作小説などもあります。
それから懐かしい映画雑誌もありまして、「キネマ旬報」という映画雑誌を1971年から欠番なしでご用意しておりますので興味がある方はぜひ見に来てください。熱心にオジサマがキネ旬をあさっているという様子がうかがえます。
それから、映画のパンフレットがたくさんあります。実は寄贈していただいたものなんですが、今はただ本棚に押し込めているだけで見れる状態にはなっていなくて。3月に予定しているプチ改装では、パンフレットを中心とした映画の資料を読めるような資料のエリアを増やそうと思っています。今は本だけ読みに来る方がオープン当初よりも増えているのもあって、このようなプチ改装を考えています。
2階のスペースも本棚が両面にバーンとありまして、本棚には映画のパンフレットを並べて、映画の世界にどっぷり浸れるような演出をしています。シネコヤの特徴としては、いわゆる映画館のように並んでいるような席ではなくて、今日の会場のC/NEさんもそうですけれどソファや、各席にサイドテーブルがあってちょっとラグジュアリーなゆったりと席をとってくつろげるようなスペースになっています。あともう一点、照明が完全に真っ暗にならないです。食事しながら、コーヒー飲みながら、インテリアというか空間も含めて映画体験をしていただきたいので、薄明りの状態で映画を観て頂くようになっています。
シネコヤがオープンしたのは2017年ですが、シネコヤ自体の活動としては10年前くらいからやっていました。もう本当にボランタリーな、すごい小規模な活動です。
藤沢市には60年くらいやっているいわゆる街の古い映画館が2館ありましたが、おそらく藤沢市内のシネコン開館の煽りもあって相次いで閉館してしまい、2010年に街の映画館すべてが無くなる、という状態になりました。
このケースって地方都市で多いと思っていて、私自身もそこに寂しさを覚えて、地元で映画空間を作れないかなと思ったんです。藤沢市のような人口43万人の大きな都市でも映画館が残っていけないのかという衝撃があって、それで「もう映画館はだめなんだな」と思ったんですね。渋谷など都内でもミニシアターが軒並み閉館していった時代だったので、いわゆる「映画館」という形を残していくのは難しいんだと、感じた覚えがあります。そこで今までの映画館じゃない新しいスタイルの、小規模でもいいから地方都市でも長く残っていけるような映画空間を作っていけないかなって思ったところが最初のきっかけです。
私は映画業界にそれまで一ミリたりとも仕事として触れたことが無かったんです。なにもツテがないので気持ちだけでとりあえず上映会は企画してみようと思って、2013年に初めての有料のイベント上映会、いわゆる自主上映会を開催しました。その時にもうすでに現在のシネコヤの構想はあって、いつかそういったお店を作りたいと念頭に置いて、そこを目指して上映会をスタートしました。
2013年にそんな思いから、まず1回目の上映会を行いました。「映画館やりたいんです!」って言うと、「すごいことやってるね!」みたいな、いわゆる大きい映画館を想像されてしまうんですが、そのころから今のシネコヤのようなイメージを持っていて、上映会も開催する場所はいわゆるホールじゃなくて、かといって会議室にパイプ椅子並べてっていうのもつまらないなと思っていたので、ちょっとおしゃれな洋館風のレンタルスペースをお借りしていました。まさにこのC/NEさんみたいにラグをひいて床座りで食事しながら映画を観る形です。
その時すごく力を入れたのが、「シネフード」という映画の中に出てくる食べ物を再現して、それを食べながら映画を観るというイベントです。湘南地域の飲食店の方にお願いをしてコラボしていただいて。これは『シンプル・シモン』(2010年/スウェーデン)という映画の、丸い形のものしか食べられないというアスペルガー症候群の少年の話なんですが、その丸いプレートを食べながらみんなでシモンになりきるということをやりました。
もうひとつ、会場演出にも力を入れました。完全に主催の自分たちが楽しみたいからやるみたいな感じでしたが、映画の中に出てくるアイテムを会場内にこっそり置いておいて見つけた人がウフフって思うような小ネタを仕込んでいました。最初はトイレにちょっと小物を置いていたのが、なぜかだんだん大掛かりになってきて・・・こちらは『シンプル・シモン』のドラム缶ロケット。シモンがイライラしたときに閉じこもりに行くドラム缶があるんですが、それをアイアンアーティストに作ってもらって、これに入って記念撮影をするというようなことをやってみたりとか。
『真珠の耳飾りの少女』(2002年/イギリス)という映画を上映した時にフェルメールのアトリエを再現するという大がかり演出もやりました。自分たちが楽しくてやっていたことですが、意外とみなさん記念写真を撮っていただいたりして、その感動をスッとシェアできる方もいたのかなと思っています。
そんな上映会を最初は不定期で、季節に1回から毎月、最終的には月に2回というペースで3年やりました。シネコヤとしては常設の場を作ることを念頭に置いていたので、いろんな会場で上映会をするのではなくて、同じ場所で必ず上映会をしていくことをコンセプトにやっていました。それで3年経ったところで、そろそろシネコヤの常設館をつくりたいという思いもあって、今の物件に出会って、現在のシネコヤをオープンしました。
常設のハコを持って、今年やっていきたいのがイベントです。オープンして3年間、「とりあえず毎月の作品決めなきゃ」みたいな感じで全然余裕がなくて、今日のイベントのようなコミュニティの場を作っていくこともできませんでしたが、そろそろ丸3年を迎えて常連のお客様や遠方から来てくれる方も増えてきたので、交流の場としてイベントをやっていきたいなと思っています。
ミニシネマづくりのワークショップ
2月には子ども向けの「ミニシネマづくりのワークショップ」として、シネコヤのお店を舞台に5分の映画を作るイベントを予定しています。実は去年このイベントをやってみたところ抽選になるぐらい好評でした。その場に居合わせたお客さんも巻き込んで映画に出てもらうなど、面白さを作れたらいいなと思っています。
今年新春一発目には「かるた大会」をやりました。これも子ども向けの、親子で参加できるイベントです。言葉にじかに触れる機会を子どもたちにも持ってもらえたらいいなと思ってかるたというアイテムを使いました。これがもう大盛り上がりで、子ども達にとっては、家族以外のたくさん人がいる中でのかるた大会というのは意外と新鮮だったようです。いい言葉のコンテンツを見つけたので来年もやりたいなと思っています。
かるた大会
あと「映画のススメ」という、大人向けの、テーマに合わせて映画を1本紹介していくというイベントもやります。この日はバータイムみたいにして、お酒を飲みながらみんなで語り合う会みたいにしています。
あともう一つ、大人のための読み聞かせ会というイベントも開催しています。絵本だと子どもに読み聞かせることの方が多いと思うんですが、大人になっても絵本好きな人って意外といるんです。そういう人たちを対象に絵本の読み聞かせと、自分の好きな絵本を一冊持ってきて、紹介しながら交流するという形になっています。シネコヤという常設のハコができて、少しずつでもそういうイベントを開催していけるようになるといいなと、丸3年たったところで感じています。
大人のための読み聞かせ会
最後に、映画なお店を作るために大事だなと思った3つのことをご紹介します。
1つ目は「どんな映画空間にしていきたいのか」ということ。ありがたいことにシネコヤをオープンしてからC/NEさんのようにこういうお店作りたいんです、って相談に来ていただくこともすごく多いんですね。その時にどういう風な空間の場を作りたいということが明確な方の方が具体的に進んでいくなと思っています。
毎日上映する場所なのか月に1回なのか、カフェのような場所なのかホールのような場所なのか、いわゆる「映画館」を作りたいのか映画館でなくても映画を楽しむための場づくりなのか、そのあたりはすごく大事だと思っています。
2つ目は、「どんな映画を上映したいのか」。今我々が直面している問題のひとつが、上映素材のことです。今はシネコヤはブルーレイで流していますが、ブルーレイ素材がだんだん作られなくなってDCPという上映素材に変わっていて、ブルーレイでの上映ができなくなっています。だから、「やりたいんだけれどこの作品上映できないじゃん」っていうことが年々増えてきて、困ってますよね(笑)
ただそれは新作を上映したいときにのみ関わってくることなので、新作を上映したいのか、旧作、あるいはもっと古いクラシックな名画、あるいはドキュメンタリーなど、上映したいコンテンツがどういうものなのか、そしてその作品を持っている会社によって上映素材を借りられるかどうかが変わってきます。
3つ目は、「どんな場所に作りたいのか」ということが大事かなと思います。今日ここに来る前に時間があったので学芸大学の駅周辺歩いて回ってみたんですが、結構個人店もあればチェーン店もいっぱいあって、でも大都会な感じでもなくて親しみのある感じもするし、すごく可能性があるというか、色んなことを挑戦できそうな街だなと思って見てました。どういう地域に作りたいのかによって、その中に入れるコンテンツやどういうスタイルでやるのかということも発想できるのではないかなと思います。
シネコヤの今後の目標としては、映画館でもなく、ミニシアターでもない、「シネコヤ」というものを広めていきたいなと思っています。それぞれの街にいろんな形のシネコヤができたらいいなと。地方都市でいかに映画文化を残していくかというところがシネコヤの取り組みたい部分でもあるので、地方でシネコヤのような映画空間が作られる際の、モデルケースになればいいなと思っています。我々のミッションは、そういった地方に小さいハコを作っていく仲間を増やすことだと思っているので、今日はそういった皆さんとつながることができたらいいなと思っています。
竹中翔子(たけなか・しょうこ)
株式会社シネコヤ代表取締役
学生時代に映画館のアルバイトスタッフを経験し、映画の魅力にハマる。地元映画館の閉館を受け「もう映画館はダメだ!」と思い、映画だけではない+αの空間づくりを目指し、「シネコヤ」として本格的に活動をはじめる。鵠沼海岸のレンタルスペースで毎月2回、フードや会場演出をこらした映画イベントを主宰。2017年4月鵠沼海岸商店街の一角についに「シネコヤ」をオープン。貸本屋を主体とした「映画と本とパンの店」というコンセプトで新たなスタイルの空間づくりを行っている。
「映画とパンの店・シネコヤ」
【営業時間】
営業時間:9:00〜20:00
毎週木曜日定休
【アクセス】
神奈川県藤沢市鵠沼海岸3-4-6(鵠沼海岸商店街 旧カンダスタジオ)
小田急江ノ島線「鵠沼海岸」駅から徒歩3分くらいです。
【問い合わせ】
TEL:0466-33-5393(代表)
WEB:http://cinekoya.com/
路地裏の文化会館「C/NE」
■住所:東京都目黒区鷹番2丁目13−9
■アクセス:東急東横線「学芸大学」徒歩4分
■営業:平日は間借りカレーとBAR営業。土日にイベント。平日は「シーネ食堂」としてお酒と料理を提供。詳しくはオフィシャルサイトにてご確認ください。
■オフィシャルサイト:https://welcomecine.com/
■Facebook:https://www.facebook.com/wearecine/
■Instagram:@welcome_cime
Writer:BSSTO編集部
「暮らしにシネマチックなひと時を」
シネマな時間は、あなたがあなたに戻る時間。
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