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REPORT
Mar. 05, 2020

【イベントレポート】「映画と本とパンの店 シネコヤ」にきく
「映画なお店の作り方」[後編]

2020年1月26日(日)、Brillia SHORTSHORTS THEATER ONLINE(BSSTO)は、東急東横線「学芸大学」駅近くにある「路地裏の文化会館 C/NE(シーネ)」にて、「New Cinema Lab.」を開催しました。
映画を軸にした場づくりをしている方をゲストに、開業ストーリーやその裏にある哲学を伺う本イベント。文化的な拠点づくりに取り組む方を応援する目的で、BSSTOの公開収録イベントとしてスタートしました。第2回となる今回は、「Vol.2 “映画と本とパンの店 シネコヤ”にきく“映画なお店の作り方”」と題し、神奈川県藤沢市の鵠沼海岸から(株)シネコヤ代表取締役の竹中翔子さんをゲストにお招きし、お話を伺いました。

前編はこちら
中編はこちら

後編は、会場のみなさんからの質問タイムの模様をお届けします。

写真左:大竹悠介(BSSTO) 写真右:竹中翔子さん(シネコヤ)

「映画なお店」の意義とは?

大竹(モデレーター/BSSTO編集長)
ここからは質疑応答タイムに入っていこうと思いますが、今までの話を聞いて、もうちょっと聞いてみたいなということがある方?

上田(C/NE館長)
僕からいいですか?この「映画なお店」みたいなことをやろうとした時に必ずついて回る自問自答だと思いますが、今は映画って言ったらシネコンかNetflixのような配信サービスかに二極化していると思うんですね。スターウォーズみたいなのを二子玉川に観に行ったりするか、家でスマホやテレビで観たりするか、みたいな。
それで、野外上映会やフェスイベントのような非日常感とは違う、C/NEやシネコヤさんのような規模感の映画体験、言うならば家で観られるものをあえてお店でやることの価値ってどんなところにあると感じていますか?シネコヤさんは3年間やり続けてきた中で手ごたえや見えてきたことはありますか?

竹中(シネコヤ代表)
今はネットやレンタルで手軽に映画が観られる中で、今日もこういう会を開けばこれだけの人が集まってくれて、配信じゃない部分に何か魅力を感じてきてくださる方がいるということ。そこは少数派だとしても絶対になくならないポイントなんだろうなと思っています。
なにか忘れちゃっているだけで感じている人も多いはず。だから大切なのは配信じゃない魅力の部分をいかに刺激してあげられるか、+αのコンテンツやそれ以外の部分でどう見せていくのかだと思っています。
現段階でうまくいっているとは正直言えないんですが、何かそういうものは潜在的にみんな持っていて、だからこういうお店をやりたい人もいるし、消えてなくならないものではあるんだと思います。
『溺れるナイフ』(2016年)の山戸結希監督が、去年コミュニティシネマ会議(全国のミニシアターや上映会の企画者、配給会社等が集まる映画業界のシンポジウム)でされていた話ですが、人間っていうのは動物本能的に暗闇の中で夜空や星(スター)を見上げて美しいなと感じられる能力が備わっていて、それと同じように映画の世界は暗闇の中でスクリーンに映るスターを見たいっていう潜在的な意識がきっとあるんだと思う、ということをおっしゃっていて、すごい素敵だなと思ったんです。

上田
今の話聞いて僕もちょっと思い出して、原田マハっていう小説家の『キネマの神様』。この小説に出てくる主人公の映画好きのお父さんがすごく名画座に行く人で、なんで映画は映画館で観なきゃいけないかという問いに対して、作っている人がスマホとかテレビの画面で観てほしいと思っているわけがない、映画は映画館で観るものだ、みたいなことを言っていたのを思い出しました。旧作とかも映画館に準ずる場所で観た方がその映画を楽しめるというか、それはあるのかなと。

左: 竹中翔子さん(シネコヤ) 右: 上田太一さん(C/NE)

シネコヤ運営への姿勢

大竹
それでは、会場の皆さんからいかがでしょうか?

Q:
竹中さんの本のレコメンドやBSSTOのコラムも読んだことがあるんですけれど、知識量がすごいと思っていて、竹中さんは普段インプットをどうやってしているのか、意識してやっているのか、もしくは好きなものだから苦にならないのかなっていうのをお聞きしたいです。

竹中
そんな風に見えているんだとしたら大成功と思ってちょっとうれしいです。本に関してはすごく本を読んだりするわけではなく、本を選定している中で出会うものが圧倒的に多いですね。なので、インプットしているという感覚はないんです。今はお店の外に出る機会があまりないので、今日のイベントのように機会をいただいたらその街を歩いたり気になっていた古本屋さんに行ったりして、そこでインプットというか息抜きしてます。
映画の選定の時も、映画を観ているときはもう仕事じゃないんですよね。感覚が一観客になれるので、あんまり苦じゃないですね。映画館に行ける時は観に行ったりもしますが、だからと言ってマニアックに深めていくタイプではなく雑食的に何でも観てみる感じです。広く知識があるように見えるかもしれませんが非常に浅いです(笑)

Q:
映画を上映していく中で、プロジェクターが止まったり音響に不具合が出たりといった機材トラブルもあったと思うんですが、3年間経験してきた中で、そういった当日の上映中の不安っていうのはいまだにあるんでしょうか?

竹中
そうですね。これまで何度か上映中にディスクが止まったりノイズが入ったりすることもありましたが、予備機を必ず用意しているので、絶対に上映できないという状況にはならなかったです。ディスクに関してのトラブルは回避できないとは思うのでそれは予想した上で備えておけば大丈夫かなと。移動式映画館だったら予備機を全部持ち歩くわけにはいかないのでまた違ってくると思いますが、常設は予備を置いておけるのでその辺の不安はかなり和らぐかなと思いますね。

Q:
シネコヤさんのようなお店でイベントをやる際、監督とか関係者とか俳優さんとか作り手側の方をトークイベントのような形で呼びたいという場合はどうしたらいいんでしょうか。

竹中
実はシネコヤはその点において弱くて、今までトークイベントの開催は1回だけなんですよね。行きますと言ってくださる監督もいるんですが、キャパと経費を考えると難しくてなかなか呼べていません。

大竹
今のシネコヤで、邦画と洋画の割合っていうとどれくらいなんですか?

竹中
正確に数えてはいませんが、洋画のほうが圧倒的に多いですね。邦画のそういった対面のイベントは都内でバンバンやっているので、行きたい人はそっちに行ってもらうでいいのかなとは思っています。だからこそシネコヤでしかできないトークショーがやれたらいいなと思いつつ、まだそこは取り組めていない部分ではあります。

映画館でもミニシアターでもない「シネコヤスタイル」とは?

Q:
映画館とかミニシアターではなく「シネコヤというスタイル」を広めていきたいというお話をされていましたが、「シネコヤ」の定義のようなものがあれば教えて頂きたいです。

竹中
難しい質問ですね。まず、シネコヤは何を持ってシネコヤとするかというところはこっそりとシネコヤのウェブサイト(リンク設置http://cinekoya.com/vision/)に書いてあるんです。シネコヤの目指すこと、ですね。ひとつは、みんなで映画を観る空間を持つということ。ふたつ目は、「映画館」という枠にはこだわらないということ。三つ目が、映画+αのコンテンツを持つこと。この三つをシネコヤの定義として考えて、これがシネコヤのスタイルと呼べるようになるといいなと思っています。

Q:
これからシネコヤを違う方がやられるときにたとえばどういったところでやってほしいとか、どういったところだったらはまるんじゃないかなとか、具体的にこの県のこの場所がいいんじゃないかなという場所があればお聞きしたいです。

竹中
具体的に自分で作りたいという想いは今の鵠沼海岸にしかないので、この地域にこういうのがいいんじゃないのかみたいなのはあまりないです。ご相談があった時に、お話を聞いてそれは面白そうですねっていうのはありますが。ただその地域が持っている、その土地がもともと持っている文化というか地域性があると思うので、そこにあったものがいいんじゃないかと思っています。

映画からコミュニケーションを生むには?

Q:
私も八王子で3年くらい、毎月上映会をやっているんですが、シェアタイムを私は重要視していて、終わった後にみんなで感想を言い合うとか来た方とコミュニケーションをとることが大切だと思っています。シネコヤさんでは映画を観終わった後のお客さん同士での感想のシェアはどのようにされているんでしょうか。

竹中
先ほどのプレゼンでも触れましたが、オープンしてから3年間の中ではそういった場づくりができなかったので、今年から「映画のススメ」というイベントで、映画について語り合えるような場を作れたらいいなと思っています。
あとは意図してそういうイベントを組まずとも、シネコヤにはカフェスペースがあるので余韻を味わっていきたい人は自然と残るんですよね。カウンター越しに「映画どうでした?」みたいな話が自然とスタッフとお客さんの間であって、そこに横にいたお客さんも交じって話すみたいなことは時々あります。だからそういう交流が生まれやすくなる環境づくりをしていくのがいいかなとは思っています。
やっぱりみんな終わった後しゃべりたいんですよね。シェアタイムを設けて欲しいっていう声も実際にあるので、今後イベントとして、例えば一つシネコヤでやっている映画に対してこれを観た後にこの時間にみんなで話しましょうみたいなこともあったらいいのかなと思っています。

大竹
シェアタイムのようなことは、C/NEさんはすごくやっていますよね。

上田
同じ映画がいろんな視点でわかるから二度三度おいしいっていうか。でもいろんな人がいると思うんですよ。観た後1週間くらいかけて消化して寝かせてから口にしたい人もいれば、すぐに共有したい人もいるし。
うちもバーカウンターで、竹中さんが言っていたように自然発生的に話が始まって、隣のお客さんが入ってみたいなことがあります。それが場所を持っているから作れる一番いい景色。本当はセットアップせずに自然発生的にそういう風になったらいいなあって。これから語る会始めますっていうよりもね。

竹中
そうですね。まあでもセットされている会を経て、そこの常連さんが自然に語り合うような形になっていくと思うので、そうやってシネコヤのような場所で映画を観たい意欲を刺激する仕組みを作っていけたらなと思います。

自然とはじまる交流はこの日も。

一緒に新しい「映画空間」を

大竹
では、今日を振り返ってのまとめをこの3人でしたいと思います。まず上田さんから。

上田
前回のゲストが逗子のCINEMA AMIGOさんで、今回はシネコヤの竹中さんが来てくださって、僕がこの場所をやろうと思った時にも、CINEMA AMIGOさん、シネコヤさんってやっぱり意識した場所でした。まだ前例がない時から、フロントランナーとして先陣切ってやってきて、もう3年も。しかも常設で、っていうところに、僕は竹中さんの並々ならぬ強さを感じました。
それはフロントランナーとして、自分も頑張らないと!といつもエールをもらっております。そして今日も良かったなと。ありがとうございます。

大竹
僕が竹中さんのところに初めて行ったのが2018年の1月7日なんですよ、日付まで覚えてます。その時に、自分でもやりたいなって思ったんですよね。
文化を育てるっていうのは、自由に生きることを支えることです。好きなことを好きって言っていいんだ、人と違っていいんだ、我慢しなくても自分が自分らしくあっていいんだっていう心を支えてくれるのが映画とか本だと思うので、そういう文化の価値を育む場所が地域に必要だなって思います。
渋谷みたいな都会の文化もそれはそれでいいんですけれど、地元の中高生が気軽に行けるような場所にそういった空間があればいいなって強く思っていて、そういう場所を僕自身作りたいなと思います。
こういう機会をくださった竹中さんには本当に感謝していますし、シネコヤをいろんな街で、っていうところは僕もぜひ一緒にやっていきたいなと思っていますので引き続き宜しくお願いします。

竹中
今日こういう機会を頂いて、フロントランナーとかかっこいいことも言っていただきましたが、私たちより前にCINEMA AMIGOさんやUPLINKさんのような、先陣切って映画というコンテンツの新たな取り組みをされている方々がいてのシネコヤだと思っています。シネコヤ立ち上げるときにAMIGOに相談しに行きました。
我々も仲間を増やすことがミッションだと思っているので、一歩踏み出そうという方がいらっしゃいましたらぜひ仲間になってもらえたらなと。
映画に触れる機会っていうのをいかに残していけるか。一緒に取り組んでいただける方々、お待ちしております!

(撮影:藤川 舞子)
(記事構成:安田 佳織)

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竹中翔子(たけなか・しょうこ)

株式会社シネコヤ代表取締役
学生時代に映画館のアルバイトスタッフを経験し、映画の魅力にハマる。地元映画館の閉館を受け「もう映画館はダメだ!」と思い、映画だけではない+αの空間づくりを目指し、「シネコヤ」として本格的に活動をはじめる。鵠沼海岸のレンタルスペースで毎月2回、フードや会場演出をこらした映画イベントを主宰。2017年4月鵠沼海岸商店街の一角についに「シネコヤ」をオープン。貸本屋を主体とした「映画と本とパンの店」というコンセプトで新たなスタイルの空間づくりを行っている。

「映画とパンの店・シネコヤ」

【営業時間】
営業時間:9:00〜20:00
毎週木曜日定休
【アクセス】
神奈川県藤沢市鵠沼海岸3-4-6(鵠沼海岸商店街 旧カンダスタジオ)
小田急江ノ島線「鵠沼海岸」駅から徒歩3分くらいです。
【問い合わせ】
TEL:0466-33-5393(代表)
WEB:http://cinekoya.com/

路地裏の文化会館「C/NE」

■住所:東京都目黒区鷹番2丁目13−9
■アクセス:東急東横線「学芸大学」徒歩4分
■営業:平日は間借りカレーとBAR営業。土日にイベント。平日は「シーネ食堂」としてお酒と料理を提供。詳しくはオフィシャルサイトにてご確認ください。
■オフィシャルサイト:https://welcomecine.com/
■Facebook:https://www.facebook.com/wearecine/
■Instagram:@welcome_cime

Writer:BSSTO編集部

「暮らしにシネマチックなひと時を」
シネマな時間は、あなたがあなたに戻る時間。
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