コロナ禍を受けて映画館の苦境が取り立たされています。また、ネットフリックスやアマゾンプライムなどの動画配信サービスの動向は大きく報じられています。
実際に日本で暮らす私たちと映画の関係にはどんな変化が生じているのでしょうか?国際短編映画祭 SSFF & ASIA は SSFF & ASIA 2021の開催と合わせ株式会社Insight Techと共同プロジェクト「CINEMA VOICE」を立ち上げ、一般の生活者を対象とした大規模調査を実施しました。ここでは2021年4月28日~5月12日に行われた調査の結果を、Insight Tech CEO 伊藤 友博さんにご紹介をいただきます。後半は、これからのあるべき映画祭の像について分析します。
(前編はこちら)
Cinema Voiceプロジェクトは、米国アカデミー賞公認・アジア最大級の国際短編映画祭 「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」とのコラボレーションにより展開されてます。
そこで、「どのような映画イベントが開催されたら参加してみたいと思いますか」といった投げかけもしてみました。自由記述形式で沢山の期待・アイデアが寄せられました。
生活者の皆さんの期待・アイデアを客観的に解析するために、私たちが提供している「アイタスクラウド」を活用し、意見の量×質の両面で、どのような意見がまとまった意見として存在するのかを炙り出しました(下図)。加えて、レアで新奇性が高い意見を「アイデアイ」でピックアップしました。
その結果、生活者が映画祭に期待することとして、以下の4つの要素が存在することが明らかになりました。
【Touch】
監督や俳優の心情を知り、作り手に自分の気持ちを伝えることで、作品をより深く堪能できる
【Talk & Community】
リアルとオンラインの垣根を越えて、作品や関連するカルチャーについて鑑賞者同士で語り合える
【Experience】
作品に出てくる食事やファッションだけでなく、五感に訴えかける印象的なシーンを体感できる
【Family & Memory】
お子様連れや障害者などでも気兼ねなく参加できるオープンな空間で思い出作りができる
それぞれについて、具体的にどんな期待・アイデアがあるのか、文章解析AIがグルーピングした代表的な意見のクラスタごとに見ていきましょう
監督や俳優の心情を知り、作り手に自分の気持ちを伝えることで、作品をより深く堪能できる
<生活者の期待として明らかになったこと>
映画祭と聞くと、好きな俳優や監督がレッドカーペットを歩いているシーンや、受賞後にスピーチをしているシーンを思い浮かべるが、それを遠くから眺めているだけでは満足できない。作品の題材となったテーマや主人公の感情などを「監督や俳優と意見交換がしたい」という気持ちを持っている人が多い。作品の解説や撮影の「苦労話に触れる」ことで、作品をより深く理解できるし、愛着も湧く。
リアルとオンラインの垣根を越えて、作品や関連するカルチャーについて鑑賞者同士で語り合える
<生活者の期待として明らかになったこと>
映画の感想を誰かに伝える機会がまったくなくなってしまった。地方在住なのでイベントに参加すること自体が難しい。
コロナ禍で普及した「オンラインでの交流機能」を駆使して、ファン同士で作品内容や関連するカルチャーについて「感想を伝え合いたい」。映画祭という場所でなら、会話が弾むコミュニティーに出会えるはず。
作品に出てくる食事やファッションだけでなく、五感に訴えかける印象的なシーンを体感できる
<生活者の期待として明らかになったこと>
映画祭ではコンペティション作品を鑑賞したり、トークイベントに参加したりするだけではなく、「映画に出てくる有名なシーンを擬似体感できるようなアトラクション」を楽しみたい。最近のテクノロジーであれば、映像や音響だけでなく、触覚や香りなども含めた効果で「臨場感の高い没入体験」が味わえるのではないか。
お子様連れや障害者などでも気兼ねなく出入りできるオープンな空間で思い出作りができる
<生活者の期待として明らかになったこと>
映画祭に参加したくてもできない主な原因として、「小さな子供の存在」や「身体的問題(健康不安や障害)」がある。作品上映中やイベント中に子供が騒いだり、自分が体調不良になったりして「周囲に迷惑をかけること」はしたくない。託児所やキッズスペース、専有スペースを利用できるだけでなく、自由に出入りができる体験コーナーや撮影スポット、記念品などで「気軽に思い出作り」がしたい
生活者の生の声をみると、これからの映画祭は「体感」と「語り合い」のインタラクティブ空間になってほしい、という期待が読み取れます。
映画祭は「映画を見る場」「映画が表彰される場」「映画に関わるビジネスが興る場」だけでなく、映画を深く「知る」、「考える」、そして「繋がる」場にもなってほしい、といった価値が期待されています。
一時の「イベント」ではなく、継続的に生活者と映画との接点を持ち続ける「ライフスタイルメディア」としての存在、イベント会場という「スポット」ではなく、オンラインを活かして新たな縁を紡ぐ「ハブ」の役割が期待されているのかもしれません。
最後に、「あなたが考える『理想的な映画鑑賞方法』はどのようなものですか」と問いかけをしました。
文章解析AIで解析した結果、理想的な映画鑑賞方法として大きく4つの期待があることが分かりました。Relax , Free Style , High Level , Privacyの4つです。
High LevelやPrivacyに関しては、これまでの映画鑑賞スタイルの延長線上にある期待と言えます。素晴らしい音響施設で大きなスクリーンで没入感を味わいたい。そしてその時間や空間をだれにも邪魔されたくない、という思いです。
これに加え、今回の調査からは特徴的な期待が浮かび上がりました。「生活に身近な存在だからこそ、色々なシーンで、仲間と交流しながら、カジュアルに映画を楽しみたい」という期待です。
天井に映し出される映画をリラックスした状態で楽しみたい、芝生に寝っ転がりながら屋外で映画を見たい、仲間とお酒を飲み、おしゃべりしながら映画を楽しみたい。RelaxしてFree Styleで映画を楽しみたい、という欲求です。
「映画が身近な存在だからこそ」の期待が拡がっていると言えます。
Free Styleに該当する意見のクラスタを実際に見てみましょう。
芝生に言及する声が沢山寄せられました。「夜空の下、芝生を敷いて」「友人や恋人とお酒を飲みながら」「のんびり」映画を見たい、「プラネタリウム風に」「雑音が気にならないようにイヤホンでいいかな」と自由でカジュアルなスタイルで映画を楽しみたい、という期待がうかがえます。
お酒と映画。これもたくさんの方から声が寄せられました。「お食事やお酒もソーシャルディスタンスで」と映画館での新しい映画鑑賞を提案する声や「高級ホテル」や「グランピング」を貸し切りにして「チビチビお酒を飲みながら」、「ビーチベッドで寛ぎながら」といった意見も。映画を大切に想うからこそ、人生の素敵なシーンを彩る存在として映画への期待が高まっているようです。
STAY HOMEが続く中で、仲間とワイワイ楽しみたい、外出してちょっと変わったことがしたい、贅沢な時間を過ごしたい、というニーズが強まっていることも背景にあるのかもしれませんね。
皆さんは、どんなスタイルで映画を楽しみたいと思いますか?
長文にわたりお付き合いを頂き有難うございます。第1回調査では「あなたにとって映画とは?」を文章解析AIを活用しながら炙り出しました。その結果、以下のようなことが明らかになりました。
①この1年、映画は生活者に寄り添う「身近な存在」に
②映画は生活者の人生の伴走者であり羅針盤
③映画は日常の中の「非日常」であり「心の支え」
④これからの映画祭は”体感”と”語り合い”のインタラクティブな空間へ
⑤リラックスしてフリースタイルで映画を楽しみたい
この1年でますます私たちの身近な存在になった映画。余暇活動の選択肢であるだけでなく、生活者の人生の伴走者であり羅針盤になっていることが分かりました。そして、映画は日常の中で「非日常」を体験させてくれるものであり、「心の支え」でもある。
想像する以上に、私たちにとって映画というのは大切で欠かせない存在であり、人の心や日々の生活を豊かにしてくれる存在。ひいては社会に想像と創造をもたらし、活力を与えてくれる存在であることが明らかになりました。
人類が今までにない状況に強く立ち向かう上でも、映画は大切な示唆をもたらし、そして未来へ導いてくれるものなのかもしれません。
第1回調査 「あなたにとって映画とは?」のアンケート結果と自由回答のAI解析によって、コロナ禍によって映画が生活者に寄り添う「身近な存在」になっていること、映画との思い出は人生の大切なエピソードと伴走し「人生の羅針盤」になっていること、そして、制約の多い日常生活を過ごす人々の「心の支え」となっていることが分かりました。
第2回調査では、6月11日(木)から開催される「SSFF & ASIA 2021」への参加状況や満足度を聴取することに加えて、第1回調査で収集した生活者の声をベースに検討した新しい施策アイデアに対する評価や期待を確認します。また、「SSFF & ASIAへのご意見やご要望」や「ショートフィルム(短編映画)に求めること」などに対して寄せられた声を解析し、「SSFF & ASIA 2022」 及び 新しい映画コミュニケーションに活用してまいります。
第2回調査開始は会期終了直後の6月22日頃を予定しています。
引き続き、映画祭×AIテクノロジーで映画の新たな価値を探索するCinema Voice プロジェクトにご期待ください。
株式会社 Insight Tech
生活者の不満とその背景にある価値観変化を「スピーディ」かつ「客観的」に見つけ出し、 社会の「不」を解消するエキスパート。56万人の会員からなる「不満買取センター」を運営し 、2,100万件超の不満データから自然言語処理とマーケティングの知見で新たな価値を読み解く インサイトドリブンによって、あらゆる領域の企業様と価値共創を推進しています。
・設立:2012 年 6 月
・代表取締役社長:伊藤 友博