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INTERVIEW
Jun. 22, 2018

【Special Interview】白濱亜嵐主演のショートフィルムを監督
安藤桃子が高知で起こす革命とは?

父・奥田瑛二、母・安藤和津、妹・安藤サクラという映画一家に生まれた安藤桃子さん。ロンドン大学芸術学部を次席で卒業後、ニューヨークで映画づくりを学んだ国際派の映画監督だ。そんな安藤さんが、映画『0.5ミリ』の撮影を機に高知県に移住し、小さな映画館を立ち上げた。なぜ世界の舞台から日本の田舎に場を移したのか。なぜ、映画館なのか。新作映画『ウタモノガタリ』の完成披露試写会のために来京した安藤さんに、話を聞いた。

すべてを出し切った後の、新しい挑戦

今回、ショートショートとLDHが製作した短編集『ウタモノガタリ』で、ショートフィルム『アエイオウ』を監督されました。若い世代に人気の白濱亜嵐さん(GENERATIONS from EXILE TRIBE)をキャスティングした本作ですが、オファーを受けた時のお気持ちは?

安藤
妹の安藤サクラを主役にした長編映画『0.5ミリ』の公開イベントで、2014年秋から2015年初めにかけて全国を回り、そのあとすぐに出産しました。出産と子育てで、すべて出し切って、あとはもう何も出すものがないぞ、という状態でした。今までのすべてのものがリセットされて、今度は新しいものをインプットしないと次に進めないと思っていたんです。そんな時に、ショートフィルム制作のオファーが来て、いい監督業復帰のタイミングだぞ、すごく面白そうだと思ってやることにしました。

安藤桃子さん

いままでオファーを受けて作ることはなかったのでしょうか?

安藤
今までは独立プロダクションで資金繰りはじめ、企画から全て自分主導で映画を作ってきました。今回はまず楽曲が先にあって作るというお話で、新しい挑戦として楽しそうだと純粋に思いました。それから、EXILE TRIBEという、若者への影響力が一番大きい人たちとコラボレーションするというのは、自分自身が未知の世界と関われる素晴らしいチャンス。ワクワクするし、すごくやりたいと。

若者に向けた作品という点で意識したことは?

安藤
不親切はよくないですが、説明をするところとしないところのバランスは気にしましたね。いまの映画や文学を取り巻く状況って、なんでも説明的にわかりやすくする流れがあると思います。予告編でも「これは主人公が最後に死ぬ悲しい映画です」って全部言ってしまう。その結果、観方や読み方を若い世代からある意味奪ってしまっていると感じるんです。

確かに『アエイオウ』は、わかりやすい映画ではないですね。安藤監督がこの作品で表現したかったこととは?

安藤
「あなたはどんな未来を選びますか?」と、問いかけるメッセージを込めました。『アエイオウ』は1本の映画ですが、位置づけとしては映画の序章のようなもので、ここから本編がはじまりますよと。ただし、始まった先は観た人たちに委ねようと。
それから、自分が子供を産んで子育てをしながら映画を撮ることをしてみたら、自然とこれからの人たちのために、今の世代が次の世界の地ならしをしなければならないと考えるようになりました。具体的にはラストシーンですが、観た人たちに自分の心と頭で考える体験をしてもらおうという意図があります。

『アエイオウ』

高知移住と「ピンク革命」

『0.5ミリ』の撮影がきっかけで高知市に移住されたとのことですが、高知の何が合うと思って移住を決められたのでしょうか?

安藤
空港に降り立った瞬間に、「あ、この場所だ」っていう直感が働いたんです。感覚的に言うと自律神経が整ったというか・・・恋ってしたことあります?

場所に恋ですか?

安藤
人への恋でも。惚れるとか一目ぼれとか、電車で見たあの子が忘れられないとか。そういうのって別に理由ないですよね。うだうだ考えるより先にハートが動いちゃった、その対象が土地だっただけです。私は小さいころから漠然と革命を起こしたいと思っていたのですが、マンパワーが強くて描いたことが現実になる高知だったら、できると思ったんです。

革命とは?

安藤
文化による革命ですね。人間にとって摩擦が悪いわけではないのに、平和とか調和とか言って誰も喧嘩も言い合いもしたがらないんですよね。議論をしたり自分の意見はこうだって言い合ったりする中で、お互いの信頼関係が生まれていくものなのに。愛って摩擦なんですよ。殴り合うのも摩擦だし、握手もハグもキスも摩擦。「愛の元に摩擦を起こせ」って私はいつも叫んできたんです。

革命を起こすということは、これまでの世の中に摩擦が足りないと思っていらっしゃると。

安藤
殴り合いの喧嘩とか、いま学校でしたら問題になるでしょう?でも私の子供時代なんてしょっちゅうだったし、喧嘩して仲良くなったし、喧嘩した相手のことは一生忘れないし。そういうことって、心にいろんな想像力とコミュニケーション能力を育むんです。
高知県民はその想像力とコミュニケーション能力がすごく高いんです。なぜかというと、摩擦をするから。すぐに議論するし喧嘩する県民性で、でもその先には信頼関係の強さが残っているんです。高知に残っていて東京が失いつつあるもの、それが摩擦力。私たちにはそれが必要で、いますべきことは、摩擦力を取り戻しながら新しいやり方を生み出そうよってことなんだと思うんです。

人間がお互いに興味をもつ、通り過ぎないということでもありますね。

安藤
最近「ピンク革命」という画がポンと浮かんできたんです。年寄りと若者が花束で殴り合っているんですけど、本気で殴れば殴るほど花の種が飛び散って一面がピンクの花束になるという。拳銃の引き金引いたら花の種がポンポン出てきて、打てば打つほど花が咲く、みたいな。文化の摩擦がピンク革命。これを高知で起こそうと思っています。

革命と映画との関わりでいうと?

安藤
映画は、人の感受性やいろんな心のひだを刺激して、コミュニケーションに必要な「表現する能力」を作ってくれるものだと思います。例えば、監督は全部答えを持っているわけじゃなくて、感性のまま撮りたいと思ったことを撮ることもあるわけです。それを観た人が「これはこうなんじゃなないかと思った」と教えてくれると、「あ、そうか。そんな風に思ってたのかもしれないな」と気づいたりするんです。
だから、映画はコミュニケーションの中心に置くのに最適だと思うんですね。観た後は人に話したくなるし、話したくないって人だってまずスクリーンと自分の対話がありますしね。

敷居は低く、奥は深く 高知市中心部に映画館を開館

2017年10月にミニシアター「ウィークエンドキネマM」(以下、キネマM)をオープンさせました。高知市の中心部に映画館が戻ってきたのは11年ぶりとのことですが、この映画館をオープンした目的とは?

安藤
目的は映画人口を増やすことです。統計的に観たら映画人口って変わってないと思うんですが、映画館で商業映画じゃないものを観る人口は確実に減っていると思います。地方では大手のシネコンしかない。するとその系列の映画しかやっていない、単館系の映画は届いていない訳です。昔はフランス映画であろうとハリウッド大作であろうと、いろんな映画が観られていたと思うんですが、いまは多様性が失われてしまいましたね。
高知市内には多い時に36館もの映画館があったんですが、今ではシネコンを除けば「あたご劇場」だけになってしまいました。そこで、映画人口をもう一度作り直したいという思いで街の中心部に映画館を作ることにしたんです。

ウィークエンドキネマM

キネマMのコンセプトは?

安藤
「敷居は低く、奥は深く」です。例えば、映画館にはあまり行かない、ミニシアターってものを知らない世代でも、東京のオシャレなファッションには関心がある人がいます。キネマMではミニシアターに加えギャラリーも併設して、そんな人たちがイベント等を通して映画館を訪れる仕掛けを作っています。
それから、外観にもこだわりました。思いっきりおしゃれな方向に振り切れば絶対インスタ映えするスポットとして若い子達が写真をとってくれると思って。その結果、ハロウィンとかクリスマスとかのタイミングで若い子達が「なにここ、かわいー」って写真を撮ってくれました。その子たちに「映画館、入ったことあるー?」って声かけるとチラシ持って行ってくれて。そうしたら後日その子たちが3人くらい友達連れてきて映画館に入ってくれるんですね。

併設されたギャラリー「& GALLERY」

安藤さんがその場にいて声をかけて入れてくのがいいですね。

安藤
うちの家族はみんなそうですね。自分で映画撮ったら街に出かけて、カフェとかでたまたま隣にいる人にも声をかけちゃいます。一人に伝わることの強さってとても大きくて、一人に伝われば、一緒に観にいく人がいるし、その人の家族にも伝わる。地道に叩いていくっていうのは重要だと思うんですよね。特に高知は直接の力が強い県ですから。
そうやって映画館があって、映画館の周りに人がいて、大人が若い子と常に会話して、若い子達がいろんなものを体験して、受け取って、学んで、伝えてっていう、波を起こせる映画館がキネマMなんです。

上映作品も若い世代に向けて選んでらっしゃるんでしょうか?

安藤
いえ、老若男女みんなに観てもらおうとしています。で、間違えて若者が古い名作を見ちゃったり、おじいちゃんがパンチの強い若い映画を観ちゃったりしたらいいなと思っています。たまにほんとにあるんですよ。「間違えたー」みたいな顔をしていても「やばかった!結構良かった!」って出てくるみたいな。
もしつまらないと思っても、頑張って観たものは「頑張って観た」という体験を含めて印象に残るんです。それが、大人になって「もう一度観てみようかな」となる。私も、溝口健二作品は若い頃にはわからなかったけど、今になって「こんな面白い作品は他にない」って感動します。

キネマMのラインナップは多様なものの見方というか、捨象しない、いろんな作品が共存するようにしようと?

安藤
映画は全て愛から生まれてくると思うんです。何が良くて何が悪いではなく、そこに存在しているということが愛の形です。いろんなものの凝縮体を自分の思いもよらないところで見せてくれるのが映画だと思うんです。だから観る者の魂を開く。

閉館した高知東映の座席や備品を引き継いで使用

そこまで力を入れて取り組んでいらっしゃるキネマMですが、1年限定の映画館だそうですね。本当に11月いっぱいで終わってしまうんですか?

安藤
建物のオーナーとの話では、耐震や建て替えのこともあって元々1年限定で始まったんです。ですが、そこには私なりのシナリオがあります。1年で超本格的なミニシアターとギャラリーを作れば、それをなくす時には街の人たちにとっての悲劇になる。そうなれば、「これを潰すとはなにごとか」という声が大きくなって、もう一度作らざるを得なくなると。

高知の街の中に文化と出会う場所は残り続けるということですね。

安藤
はい。実は次をどういう形でやるか徐々に話を始めています。今後も映画館を支えるチームキネマMの仲間と知恵を出し合って、映画人口を増やすための試行錯誤を続けていきます。

 

(取材:大竹 悠介)
(撮影:杉田 拡彰)

安藤桃子(あんどう・ももこ)

1982 年東京⽣まれ。 ⾼校時代よりイギリスに留学し、ロンドン⼤学芸術学部を次席で卒業。 その後、ニューヨークで映画作りを学び、助監督を経て2010 年『カケラ』で監督·脚本デビュー。2011 年、初の⻑編⼩説『0.5 ミリ』(幻冬舎)を出版。同作を⾃ら監督、脚本した映画『0.5 ミリ』が2014 年公開。第39 回報知映画賞作品賞、第69 回毎日映画コンクール脚本賞、第18 回上海国際映画祭最優秀監督賞などその他多数の賞を受賞。現在、高知県に移住。一児の母。

Writer:大竹 悠介

「ブリリア ショートショートシアター オンライン」編集長。大学院でジャーナリズムを専攻した後、広告代理店勤務を経て現職。「映画体験の現代的な価値」をテーマに全国の取り組みを継続取材中。ショートショートではWEBマネージャーやクリエイターコミュニティの運営を兼務。

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