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COLUMN
Sep. 28, 2018

【映画にみるファッション】『人生はシネマティック!』
―ファッションは戦争にも負けない!―

シネマチックなライフスタイルのヒントを様々な視点から紹介するコラム「Cinema for Life」。
今回は戦時下のロンドンを舞台に、英国のプロパガンダ映画製作に奔走する人物たちをコミカルに描いた快作『人生はシネマティック!』を、ファッションの切り口でイベントクリエイターの菅原敬太氏に語って頂きます。

ケーブル編みのニットに隠された秘密とは?

ニット使いが印象的な主人公カトリン・コール(左)
©BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THEIR FINEST LIMITED 2016

1940年、第二次世界大戦下のロンドン。
主人公のカトリン・コール(ジェマ・アタートン)は、「ダンケルクの戦い」を題材とした新作映画の脚本家としてスカウトされます。
戦争にみまわれたことで、女性の服装は近代化を余儀なくされました。
代表的な肩を角ばらせたミリタリールックは、スカート丈を短くすることで実用的で機能的な洋服としてこの時代に完成しますが、カトリンがいつも着用するのはケーブル編みのニット。
戦時中に物資が不足したことで、織物生地が贅沢品となってしまいカトリンのような身分の低い女性たちには、ケーブル編みのようなハンドメイドのニットウェアを着用しなくてはならなかったのではないでしょうか。
ただ逆に、ニットウェア特有の丸みを帯びたラインが、戦時中の緊張感を少しでも和らげる女性的な優しさを伝えるものになっています。
カトリンは緊張感ある毎日の中で、自分も周りも少しでもこの緊張感が和らげばと、ファッションで主張したのかも知れません。

©BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THEIR FINEST LIMITED 2016

時代を先取りするファッションセンス

男勝りのパンツスタイルでクールな印象のフィル・ムーア
©BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THEIR FINEST LIMITED 2016

カトリンと対象的な女性として登場するのが、情報省のフィル・ムーア(レイチェル・スターリング)。
国の役人という高い地位にいる為か、男勝りのパンツスーツ・スタイルで常に行動しています。
女性には珍しいネクタイ姿に目を奪われてしまいますが、そのネクタイもスーツと同系色にまとめて、先端をパンツの中にインするなど粋で無駄のないスタイリングを披露しています。
また、着用するスーツは、英国の伝統的な長めのジャケット丈に、シェイプする高めのウエストラインを沿わせたエレガントでドレッシーなシェイプドルック・スタイル。
そしてハイウェストパンツから歩く時に現れるドレープには、第二次世界大戦後に世界的なセンセーションを巻き起こすニュールックの華やかなドレープをも彷彿させる、時代を先取りしたファッションセンスが感じられます。

 

誰もが自由に表現できるファッション・ディティール

伝統のシェイプドルック・スタイルで決めたトム・バックリー
©BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THEIR FINEST LIMITED 2016

一方で、カトリンと共同で脚本を執筆するトム・バックリー(サム・クラフリン)を始めとする英国紳士のスーツも伝統のシェイプドルック・スタイル。
しかし本格的なブリティッシュ・スタイルは、シェイプドルックの他にも袖山が高いビルドアップショルダーや大きく開かれたカッタウェイフロントなど、生地が違ってもデザインがとても似ています。
その中で、他者との違いが最も現れるのがシャツの衿型(カラー)です。
ロングポイントカラー、ピンホールカラー、タブカラーなど、誰一人として同じ衿型がいないのです。
現代人にも通じますが、スーツはとても高価な物だからこそ、複数のスーツを柄や色の違いなどで所有することができません。

©BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THEIR FINEST LIMITED 2016

一方スーツに比べてシャツは安価で入手することができる上に、本来のシャツの目的は下着であったので、清潔に保つ為には複数枚所有する必要がありました。
だからこそ衿型は、気分に合わせて毎日変えることができたはずです。
そういった背景から戦時下でも画一的なスタイルにはならないで、誰もが自由に表現できるファッションが衿型だったのではないでしょうか?

いつの時代もコーディネートのキラーアイテムは帽子

©BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THEIR FINEST LIMITED 2016

英国紳士のファッションで、マストアイテムと言えば帽子です。
劇中でも屋外では、必ずと言っていいほどコートを羽織るように、当たり前のように帽子を被っています。
これは英国の冬の凍てつくような風や空気を凌ぐ為には帽子が必須でしたが、ドレッシーなダーク・スーツ・スタイルには中折れ帽をあわせて、カントリースタイルにはハンチングやキャスケットを合わせるなど、戦時中でもTPOに応じて帽子を被り分けて、ファッションを楽しんでいるのです。
現代では、様々なファッションスタイル毎に帽子の種類があるのではないかと思うほど多種多様ですが、
これは帽子が長い年月を掛けて、ファッションの完成度に大きな違いを生み出すキラーアイテムだったからこそ機能面だけでなくデザイン面でも、進化・深化することができたのではないでしょうか?

ファッションの役割

©BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THEIR FINEST LIMITED 2016

人類の歴史は、ファッションの歴史そのものです。
悲劇的な戦争時代においても人類が存命な限りは、途絶えることなく続いてきました。
それは、どんな状況下でも衣服を纏うことは日常であり、日常であるからこそ楽しみたいと思い、楽しみたいという気持ちが、衣服を纏う行為をファッションへと昇華させたのです。
だからこそ戦時下でもファッションは存在します。
そしてそのファッションが、暗い気持ち悲しい気持ちを少しでも和らげて、日常に小さな安らぎを与えるのがファッションの役割の一つなのです。

ファッションは戦争にも負けない!

『人生はシネマティック!』

Blu-ray&DVD発売中
Blu-ray:4,700円+税 DVD:3,800円+税
発売元:キノフィルムズ/木下グループ
販売元:ポニーキャニオン
©BRITISH BROADCASTING CORPORATION / THEIR FINEST LIMITED 2016

Writer:菅原敬太(イベントクリエイター)

新製品発表会を中心とするPRイベントのプロデューサー。
キャリア20年を誇り現在も週1本ペースでPRイベントに携わり多忙を極めるも空き時間には「服」と「甘味」を求める「ファッショニスタ」であり「カンミニスタ」でもある。 「PR演出」「ファッショナブル プロモーション」を提唱し講演や講師としても活躍中。
文化服装学院 非常勤講師 Instagram: @sgwrkta
www.synchronicity.jp

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