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MAGAZINE
INTERVIEW
Nov. 26, 2020

【Special Interview】前田裕二 × 別所哲也
縦型ショートフィルムが拓く映像の未来

11月26日(木)、アジア最大級の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア(略称:SSFF& ASIA)」と、SHOWROOM株式会社が新たに展開するバーティカルシアターアプリ「smash.」が連名で、「バーティカルシアター部門 supported by smash.」の世界公募開始を発表しました。
このプロジェクトの立ち上げに際し、SHOWROOM代表 前田裕二とショートショート フィルムフェスティバル & アジア代表の別所哲也が対談を実施。そのレポートをお届けします。

ショートフィルムの魅力とは?

―ショートフィルムとは何か?その魅力についても教えてください。

別所
ショートフィルムは文字通り短い映画<短編映画>のことですが、僕らの「ショートショートフィルムフェスティバル & アジア(以下、SSFF & ASIA)」では 25分以内の作品を世界中から集めています。100年以上前に映画が生まれ、20世紀の間に⾧編映画が誕生しました。そして21世紀のインターネットの時代になって、⾧さが価値を持つのではなく、短くて、お客様に伝わる、つながるというショートフィルムが再び光を浴びています。
若手監督たちのはじめの一歩、登竜門でもあり、ネットの世界の中で短いコミュニケーション、エンターテインメントを楽しむひとつの形がショートフィルムと言えるのではないかと思います。

前田
「映画の⾧さってどれくらい?」と今、道ゆく誰かに聞いたら、きっと、「2時間くらいかな」という答えが返ってくると思います。でも、今回の僕たちの取り組みを通じて、若い人たちが「映画?5分くらいかな」と言うのが当たり前になるようにしていけたら、すごく面白い世界になると思っています。
いま、スマホにへばりついている若年層は、スマホなしでは映画館で2時間も耐えられないなど言われますが、たった5分程度の短い作品でも心が震えるんだ、という感動体験を、強く世に向けて打ち出していきたいなと思います。

別所
CMが15秒なのはすごく理にかなっていて、人間は15秒くらいの中でいろんなことを察知していると言われています。その15秒の積み重ねとして(SSFF & ASIAがショートフィルムと規定している)25分があると思っていて、25分以上になってくると、僕の感覚ではしっかりした食事を食べたなという感じなんですね。ショートフィルムは“デザートムービー”とも言われますが、食後のデザート感覚で気軽に楽しめる⾧さを考えると25分以内なのかなと。

前田
僕自身、自宅でNetflixやAmazonプライムなどの配信作品を見る時、「1エピソード見るのに何分かかるか」というのは、作品を選ぶ際にすごく大きな判断軸になっています。この作品にどれくらいの時間を捧げなくてはいけないか、という観点ですね。そこで「1時間半」となると「おぉ…結構あるなぁ…」と思うけど、アニメ1話が「23分」だと「いけるかな」と思っちゃう。結局、それを何本も見て1時間半以上見てたりするんですけど(笑)。
2時間の映画で、人生を変えるような感動体験は僕も沢山してきました。僕の人生を変えてくれた、支えてくれた作品が沢山あり、本当に、心からそうした大作にリスペクトと愛があります。ですが、TikTokの15秒に慣れている人間からすると、2時間って膨大だな……と、もしかすると思ってしまうかもしれない。でも一番最初の小さなきっかけを少ない時間で与えることができれば、そこから段々とより壮大な世界に入ってきてもらえるだろうという思いがあって、⾧編の映像コンテンツに触れるきっかけとして、まずは短尺映像で心理ハードルを下げにいく事が重要なんじゃないかなと。

別所
いまの時代、「これにどれだけ時間を使えるか?」って無意識にみんな考えていると思うんですよね。

前田
音楽にも言えることなんですけど、歌詞の解像度が最近、どんどん上がっていってると思うんです。今年、瑛人さんの「香水」が流行りましたが、その理由の一つとして、「ドルチェ&ガッバーナ」っていう、超具体的な固有名詞がサビに入っていた事が大きいと思っています。「君の素敵な香り」とかっていう抽象的な言葉じゃ恐らくダメで、みんなネットで見た時に、スッと通り過ぎちゃう。具体的なフックで「ちょっと待って!」と、ネットの海をふわふわと回遊している人々を立ち止まらせないといけない。そうやってネットで流行っている音楽を見るにつけ、きっと同様に、映画の作り方もきっと変わっていくんだろうなと感じます。

SHOWROOMの新サービス「smash.」とは?

―今回、映画祭とsmash.が組んで「バーティカルシアター部門」が設立されましたが、そもそもこの smash.を開発されたきっかけは?

前田
僕が「縦型動画が集まる場を作ってみたい」と一番最初に思ったきっかけは、2016年に作られたnever young beachというバンドのMV(「お別れの歌」)でした。

別所
女の子のごく日常の姿を撮影した映像ですね。

前田
まさに。一番感銘を受けたポイントは、「画質の粗さ」です。プロが作ってるのになんでこんなに素人が撮ったみたいな映像なんだろうか?と最初思ったんですね。でもこれ、よく見てみると、「自分のスマホの中のカメラロールに入っている動画を振り返って見ている視点」を疑似体験できる映像になってるんです。恋人と別れた後に、スマホにある思い出動画を見て、思い出を懐かしんでるというギミック。そして、タイトルが、「お別れの歌」、という(笑)。
当時、世界を俯瞰して見ると、まだスマホ向けの映像にエネルギーを注ぐということがそこまで行われてなかったんですよね。YouTubeの映像も横型ですし、そもそもスマホに特化した映像をアップする場所というのが確立されていなかった。その問題意識がずっとあって、縦型の作品が集まる場所を作りたいという思いで、smash.をリリースしました。

別所
(smash.がリリースされて)これはいよいよ来たぞ! と思いましたね。メチャクチャ可能性のある映像表現がここから羽ばたいていくだろうなと。それは技術的な部分もそうだし、クリエイティブ面でもそう。
なぜこれまでスマホを横にして映像を見ていたのか?それは20世紀の生活様式や考え方に根差して積み上げられてきたものなんですけど、それが縦になるとどうなるのか?すごく楽しみだし、ここから生まれてくるコンテンツが世界を変えていくだろうと思っています。
ショートフィルムは「起承転結よりも奇想天外」だと思っています。起承転結で物語を語るだけでなく、そこに驚きがどれだけあるか?smash.の映像から新しいドキドキを感じたい。僕は「better life(ベターライフ)」と「another life(アナザーライフ)」という言い方をするんですけど、より良い人生を見せられた時に人は感動するし、自分にはない人生を見せられたら「あんな生き方を自分もしてみたいな」というトキメキにつながってくる。そこに踏み込んでいけるのがエンタメの良さだと思っています。

前田
奇想天外といえば、短編作品に僕を惹きつけてくれた明確なきっかけがありました。それは、星新一さんの作品です。一番最初に「おーい、でてこーい」というショートショートを小学校の高学年で読んで受けた時に、思い切り殴られたような衝撃がありました。
「人を感動させるのに本一冊もいらなくて、たった5ページでもいいんだ」と。何に感動したって、5ページくらいの物語の中にまさに奇想天外な大どんでん返しがあるんですよね。こんな短い作品で、読み手に人生において重要な学びや気づきを与えることができるのか!と気づいてから、中学時代はずっと自分でショートショートを書いていました。

別所
ぜひそれを縦型動画で映像化してほしいです(笑)!

前田
いつか必ず(笑)!
学校で、友達同士でノートを回しながら、ひとり1ページを担当して物語を作っていくというのも、やってました。その作り方のいいところって、完成した物語だけじゃなく、作っていく過程こそが面白く いところなんです。それが非常に、インターネット的なんですよね。ネット上でクリエイター同士がアイディアを掛け合わせてコラボするような作品をsmash.上で実現できたらいいですね。

別所
大賛成です。僕もずっと言ってるんですが、最後の成果物だけを見せる時代は既に終わっていて、今はそこにたどり着くまでのプロセスを楽しむ時代であって、オープンソースでわいわい楽しむべきだし、そうすることで結果的に出来上がった作品に興味を持てるんですよ。

「バーティカルシアター部門」設立の狙いとは?

―そこで今回、共同プロジェクトの一つとして、SSFF & ASIAに「バーティカルシアター部門」が新設されます。

前田
楽しみです。その上で、「縦型映像」の特徴を皆さんにお伝えして、何かヒントになればいいなと思います。スマホで見る事のみを前提にした時に、一体どんな作品が面白く映えるのか、という視点は今後も無数に発見されていくと思いますが、3つ大事なポイントをお伝えします。
ひとつ目は、縦型動画はとにかく「近い」ということ。直近ではsmash.で、Hey! Say! JUMPさんのバーティカルMVを作ったのですが、メンバーがあんなに近くにいる感覚でMVを見ることってなかったから「目の前にいるようで嬉しい」というフィードバックを多くいただきました。

別所
これすごく重要で、僕も今回の応募作品がどういう「距離感」を持っているのかに興味津々です。横の映像だと近過ぎると、ちょっとキツいんですよ。映画館でスクリーンとのある程度の距離が必要なのと同じですね。それが縦になるとどういう距離感になるのか?

前田
二つ目は、横の画角と比べて(幅が狭いので)情報が「制約」されるのが面白いと思うんです。「視点を右に少しずらすとどうなってるんだろう」と、見えないことであえて想像力を掻き立てたり、その制約を逆手にとって生まれるものがあると思う。ミステリやホラーといったジャンルとの相性がいいんじゃないかと思います。
そして三つ目は「疑似体験」。スマホで見ることで、自分のスマホで実際に起きているかのように錯覚させることができる。このスマホの画角にそのままLINEやインスタの画面を出すことで、あたかも実世界で自分の身に起こっていることだと錯覚してしまう。現実と虚構の境界線を曖昧にできるのが魅力だと思います。

別所
演じる側としては、いままさにおっしゃった「制約」がある中で、どれだけ解放されて演じることができるのかが俳優の仕事でもあります。技術的な部分でも横と縦でカメラワークが変わるわけで、そこでどう演じるのか?カット割りも大きく変化するし、いろんなアイディアを生み出していかないといけなくなります。切り取られた画角に映らない“外”の部分をどう見せられるか?というのもすごく大事なことで、そこを面白がってクリエーションする監督、演者たちと出会えたら面白いですね。
もうひとつ、スマホだとベッドや地面に寝転がって、天井にかざしながら見ることができるんですよね。それによって「体験価値」が違ってくるので、クリエイターの側がストーリー開発をする上でも面白い部分になるだろうと思います。

前田
今回の取り組みが対象にしている「縦型映像」という世界は、面白いことに、「正解」や「ルール」がなにもない―とてもプリミティヴで未開拓の領域だと言えるので、皆さんと一緒に「こんな映像の作り方があるんだ」という成功事例を、我々がいち早く作りたいです。
そして、この取り組みが世界中の映像クリエイティブに影響を与えていく、海外の人たちもついマネしたくなるようなスマホ向け映像がここから沢山生まれてくる、という未来がクリアに見えます。とてもワクワクしますね。

―今回の「バーティカルシアター部門」では最優秀賞(賞金100 万円)をはじめ、受賞者は最大13名で賞金総額は300万円、18歳以下(U-18)の監督を対象にした賞 (賞金40万円) も設けられています。

別所
smash.さんの協力を得て、これだけ多くの賞を用意したというのも画期的ですので、いいアイディアがたくさん集まってきてくれたらと思います。

前田
日本中に、まだ我々が見ぬ、いや、むしろ本人すらまだ気づいていないような、物凄い才能が眠っているのではないかと本気で思っています。この取り組みを通じて、「そんなこと考えもしなかった!」というアイディアに触れてみたい。バーティカルシアターという領域は本当に手付かずのブルーオーシャンだと思うので、「バーティカルの第一人者になるんだ」という思いで、とにかく“匂う作品”を作っていただけたら嬉しいです。

別所
U-18の若い世代は生まれたときからスマホが存在するデジタルネイティブであって、彼らの着想って僕が思っているようなものと全然違うと思うし、縦型って彼らにとっては実は当たり前の世界観なのかもしれない。

前田
いま若年層はみんな、TikTokにダンス動画をアップしたり、インスタに映える写真を載せたり、スマホを介して自分が発信する側に回るようになっています。そしていよいよ、その“次”の段階に進む―それらを(よりクオリティの高い)作品に昇華していく時期、に差し掛かってきていると思っています。いまTikTok に何を上げたらバズるかって考えてる子たちに「スマホ向けにどんな映像を作ったらバズるか?」を真剣に考えてもらえるようになることが重要だなと。
TikTokにもびっくりするようなアイディアがあふれてますけど、あれはあくまでもTikTokのmeme(ミーム)の文化であり、音楽に乗って踊るという文化に沿ったものです。僕らが「縦型のショートフィルム」というフォーマットを作った時に、若くフレッシュな発想を持った方々がそこにどんな発想をぶつけてくるのか?全く想像がつかなくてワクワクしています。

別所
応募作品への期待で言うと、先ほど「ベターライフ」と「アナザーライフ」という話をしましたが、個人的にはどちらかというと、自分ではない人生=アナザーライフを見たいなと思っています。「what if(=仮に)」の世界をどこまで想像できるか? 現代のおとぎ話のようなもの、世界中の寓話や民話がもう一度、現代に生まれ変わったらどんな物語になるのか?

前田
おとぎ話、良いですね。それを現代的な解釈や、自分独自の見方で再解釈して、物語にするのも面白いかも。例えば僕自身、「桃太郎」のお話が大好きなんですけど、一番好きなのはおばあちゃんなんですよ。あの物語のMVPは桃を拾ったおばあちゃんだと思ってて(笑)。だって、普通に川にでかい桃が流れてきたとして、それを拾って家まで持ち帰ってきりますか(笑)?その勇気ある行動が無ければ、桃太郎は生まれていなかったかもしれない。これ、今までは割と普通かと思ってたんですが、みんな、桃太郎といえば、桃太郎が好き、という事に気づき、自分って変なのかな…と思っている時期もありました。こういった視点のズレ、独特の視点、ある種の「臭み」を大事にしてほしいんですよね。

別所
それこそ、おばあちゃんが主人公だったらどんな物語になるか(笑)?

前田
まさに! 僕は同じ映画を何度も見るんですが、みんなが嫌いなキャラクターの視点で見ると、泣くポイントが変わったりするんです。『桃太郎』のおばあちゃん、すげぇ…と思っている視点が、価値になることがあるんです。そのユニークさや独特で個人的な感覚や経験が大きなクリエイティブの源になると思うので、大切にしてほしいです。
プロの監督の皆さんとお話していても、みなさん「縦型、初めてでワクワクしてます」と、目を輝かせてくださいます。その言葉の通り、本当に未開拓のブルーオーシャンだと思うので、今回作品を応募する皆さんも、自分こそが縦型作品の第一人者になるんだ、という思いで、思いっきり「匂う作品」を作っていただければと思います!

別所
もう「映画って⾧さじゃない」「横じゃなきゃいけない理屈がない」時代になってるんだなと思います。とはいえここ数年、なかなかそこが動き出さなかった中で、こうしてsmash.さんと一緒にようやく動き出しましたので、ぜひ新しいチャレンジをしていただければと思います。楽しみにしています。

SSFF & ASIA 2021 バーティカルシアター部門 supported by smash.【公募概要】

【応募期間】
2020年11月26日(木)~2021年2月28日(日)
【登録料】無料
【応募ガイドライン】
1.縦型の作品:全編縦型 (1080w x 1920h)の作品
2. プレミア規定:ジャパンプレミア(日本初上映)は問いません。
3. ジャンル:不問
4. 尺:25分以内 (エンドクレジットを含む総尺)
【賞】
最優秀賞 100万円
優秀賞 60万円
Uー18 40万円
奨励賞など 10万円(最大10作品を選出)

詳細は応募要項をご覧ください(SSFF & ASIA 公式サイト)

【smash. (SHOWROOM株式会社)について】

SHOWROOOM株式会社は、「機会格差を無くし、努力がフェアに報われる世界を創る」をミッションに掲げ、2015年8月より、ライブ動画ストリーミングプラットフォーム「SHOWROOM」を運営しています。2020年には、会員登録者数が400万人を突破、幅広い分野のライバー(配信者)と視聴者を結び付け、新たな視聴体験を提供してきました。
そして、2020年10月22日に、スマートフォンでの視聴に特化した、バーティカルシアターアプリ「smash.」をリリース。音楽・ドラマ・アニメ・バラエティなどの幅広いジャンルのコンテンツを5~10分程度の短尺かつすべて縦型で展開しています。
ジャニーズ事務所や音楽プロデューサーの秋元 康氏をはじめ、大手芸能事務所、大手制作会社の協力のもと、2021年3月31日までに、2,600本のコンテンツ提供を予定しています。

公式ウェブサイト

Writer:BSSTO編集部

「水曜夜は、わたし時間」
シネマな時間は、あなたがあなたに戻る時間。
「ブリリア ショートショートシアター オンライン」は、毎日を忙しく生きる社会人の皆さんに、映画のあるライフスタイルをお届けします。
毎週水曜日にショートフィルムをオンライン配信。常時10本ほどを無料で鑑賞できます。
https://sst-online.jp/theater/

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