シネマチックなライフスタイルのヒントを様々な視点から紹介するコラム「Cinema for Life」。ファッションの切り口でイベントクリエイターの菅原敬太氏に語って頂きます。
いつの時代も憧れのファッションがありそれこそが成りたい自分の姿その物だったりしませんか?
音楽とダンスに彩られた2017年の大ヒット作『ラ・ラ・ランド』は、
ファッションとは「夢を掴む原動力」「夢を掴んだ証」だと再認識させてくれる作品でした。
エマ・ストーン演じるヒロインのミアは、女優になる夢を掴むべくパッション溢れるヴィヴィッドなカラードレスに身を包み颯爽とパーティー会場に登場する姿がとても印象的ですが、普段のデートではサーモンピンクやオフホワイトの花柄ワンピースを着用するなど恋するガーリーなカラーを着こなす姿も印象的です。
そしてカラーは対照的ですが、双方に共通するのがAラインシルエット。
フレアーな揺れ感が、夢を追う躍動感を、恋する女の子の抑揚感を演出しています。
ライアン・ゴズリング演じるセバスチャン=セブは、ジャズ・バーを持つ事を夢見るピアニスト。
大好きなジャズを弾けない葛藤から普段はブラウンカラーの服装を好むがピアノ演奏仕事の際は、ネイビーやブラックカラーのジャケットやスーツを着こなす姿が印象的です。
自由なジャズを好むセブには、基本のネイビースーツは窮屈なものであり自分自身をさらけださない鎧です。
丘の上でミアとダンスをする物語の象徴的なシーンでは、ジャケットを脱ぎ自分自身を開放しています。
たからこそセブはミアに恋をしたのでは?
ミアが働く映画スタジオのカフェに、真っ赤なレースのモードなワンピースを着た有名女優が登場します。
女性らしいシルエットも相まってその佇まいはレディーそのもの。
数年後あのカフェに、真っ白なレースのモードなワンピースを着てミアが現れる姿は、あの頃憧れたレディーの佇まいそのものでした。
夢を追い憧れの姿に成れたミアは、佇まいからもガールから大人のレディーに成長していました。
さらに、物語のフィナーレで女優を夢見ていたころのパッション溢れるヴィヴィッドなカラードレスとは対局的なブラックドレスを着用しているのも印象的です。
あるファッションデザイナーが、「ブラックは、着る人自身がカラフルなパーソナリティを持ち得てないと着こなせないカラー」と語っていました。
女優として大成功したミアは、様々な経験を通してカラフルなパーソナリティを得た本物のレディーだからこそブラックを着こなせるのです。
対してセブは、物語のフィナーレでオッドベスト、ピンホールカラーのシャツなど大人のジェントルマンしか着こなせない貫禄あるアイテムを、タイドアップスタイルで着こなしています。
しかしながらその着こなしの中に、ジャズの自由でスイングするリズム感を彷彿させるソリッドカラーのナロータイやブラック&ホワイトのウィングチップシューズをコーディネートしカジュアルダウンさせている姿は往年のジャズプレイヤーの中にも数多く存在したウェルドレッサーその者で夢を叶えたセブを表現する見事な演出となっています。
そしてとても印象的だったのは、これまでは自分自身をさらけださない鎧として、ネイビーやブラックカラーを演奏時には着ていましたが、物語のフィナーレでは自身が好むブラウンカラーのスーツになっています。
そのカラーセレクトからは、セブ自身の夢が叶い好きなジャズを演奏できている充実感が感じとれます。
レディーは「モード」を追求すべし。 ジェントルマンは「スタイル」を追求すべし。
ファッションの世界では昔からよく使われる格言ですがこの映画からもそのことが良く伝わってきます。
ミアは、憧れの「モード」なファッションを自分のものにしましたが憧れの有名女優のワンピースとミアが夢叶えた姿で着るワンピースでは、それぞれにその時代の空気というべきものが存在し微妙なシルエットや細部のサイジングに違いがうまれています。
その違いが「モード」でありその時代時代に空気があるからこそ「モード」を追求しなくてはいけないのです。
セブは、自分自身の普遍的な「スタイル」を持っており象徴的なのは、ソリッドカラーのナロータイとブラック&ホワイトのウィングチップシューズです。
特にウィングチップシューズは、カジュアルスタイル時にも着用するなどセブのトレードマークになっており自分自身を象徴するアイテムを探すことも「スタイル」を築く上で重要な行為です。
みなさんの夢はなんですか?
そう質問された時に明確に言葉で表現できる人もいれば、表現できない人もいると思います。
しかし「近い将来」「遠い未来」「こんなファッションをして」「こんな人と、こんな所に、行ってみたい」など頭の中でイメージする物も夢の一種でないでしょうか?
ファッションとは、あながた「夢を掴む原動力」にも成り得ます。
そしてその「夢を掴んだ証」であり、その過程で努力した「自分へのご褒美」なんです。
『ラ・ラ・ランド』は、そんなファッションの持つ隠れた側面を再認識させてくれる作品でした。
『LA LA LAND』(ラ・ラ・ランド)
監督:デイミアン・チャゼル
CAST:ライアン・ゴズリング/エマ・ストーン
STAFF:【脚本】デイミアン・チャゼル
STORY:
夢追い人が集まる街ロサンゼルス。映画スタジオのカフェで働くミア<エマ・ストーン>は女優を目指していたが、何度オーディションを受けても落ちてばかり。ある日、ミアは場末のバーでピアノを弾くセバスチャン<ライアン・ゴズリング>と出会う。彼はいつか自分の店を持ち、本格的なジャズを思う存分演奏したいと願っていた。やがて二人は恋におち、互いの夢を応援し合うが、セバスチャンが生活のために加入したバンドが成功したことから、二人はすれ違い始める―。
上映時間:128分
製作国:アメリカ
配給会社:ギャガ/ポニーキャニオン
© 2017 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved. Photo credit: EW0001: Sebastian (Ryan Gosling) and Mia (Emma Stone) in LA LA LAND. Photo courtesy of Lionsgate.
Writer:菅原敬太(イベントクリエイター)
新製品発表会を中心とするPRイベントのプロデューサー。
キャリア20年を誇り現在も週1本ペースでPRイベントに携わり多忙を極めるも空き時間には「服」と「甘味」を求める「ファッショニスタ」であり「カンミニスタ」でもある。 「PR演出」「ファッショナブル プロモーション」を提唱し講演や講師としても活躍中。
文化服装学院 非常勤講師
Instagram: @sgwrkta
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